宇垣工作

宇垣工作の概要

宇垣工作（うがきこうさく）は、日中戦争を解決しようとする試みであり、1938年5月から展開された日本の外交活動です。この工作は、当時の外務大臣である宇垣一成（大日本帝国陸軍大将）が主導しました。イギリスを仲介者として和平交渉を行おうとしたものの、最終的には失敗し、宇垣外相は同年9月に辞任に追い込まれました。

背景と経緯

日中戦争は1937年7月7日に始まった盧溝橋事件を契機に激化しました。最初の段階での戦争の収束が失敗した近衛文麿首相は、1937年末からのトラウトマン工作の失敗を受け、1938年1月には「爾後国民政府ヲ対手トセズ」と宣言しました。これは、今後は蔣介石の国民政府を交渉対象としないというものでした。この声明は和平の可能性を自ら閉ざす結果となりましたが、一方で宇垣は事態を憂慮していました。

1938年5月、宇垣は近衛内閣の外務大臣として就任し、自身の任務として日中和平交渉の開始や「対手とせず」方針の撤回を条件にする意向を示しました。この内閣改造は、戦争の終結を図るための一つの手段として位置づけられ、内閣内部の意見調整が必要とされました。

宇垣の取り組み

外相に就任した宇垣は即座に近衛声明の再検討を表明し、イギリスの外交官を通じて国民政府の関係者と秘密裏に接触を開始しました。孔祥熙国民政府行政院長との極秘な協議を通じて、宇垣は和平に向けた現実的な条件を引き出しましたが、陸軍の強硬派など内部からの反発に直面しました。

近衛首相は終始、蔣介石政権に対して厳しい立場をとり、和平条件の引き上げを展望しました。宇垣の工作は次第に孤立し、彼自身も近衛首相からの支持を失い、最終的には1938年9月に外相を辞任することになりました。辞任の際、宇垣は自らの権限が削られたため、近衛内閣には留まれないと語ったとも伝えられています。

宇垣工作の評価

宇垣外相在任中には、若手外交官の間で対中強硬論が台頭し、宇垣の指導力を困難なものとしました。しかし、それにもかかわらず、彼の実務的な取り組みは評価されています。歴史家の大杉一雄は、宇垣が国民政府から引き出した和平条件は、その後の交渉において非常に有利なものであったと指摘しています。さらに、外交評論家の清沢洌も宇垣の外交を高く評価しており、「久々に日本が外交らしい外交を行った」と称賛しました。

結論

宇垣工作は、日中戦争の難局を乗り切ろうとした精力的な取り組みでしたが、様々な内部対立や外部圧力が影響し、失敗に終わりました。そのため、宇垣の外交活動は「昭和史の謎」として今なお語られることがあります。和平の可能性を探る努力はあったものの、戦争の泥沼から抜け出すことはできず、事件から得られた教訓は今日においても考察の対象となっています。

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