安定衛

安定衛は、明朝が河西回廊に設置した羈縻衛所の一つであり、現在の中国甘粛省、青海省、新疆ウイグル自治区の境界付近に位置していました。名目上は明朝の支配下にあるものの、実際には元代から続くチャガタイ系安定王家が治めるモンゴル系国家としての側面が強くありました。

安定衛前史

13世紀、クビライとアリクブケによる帝位継承戦争後、中央アジアのチャガタイ家では内紛が激化し、多くの王族がクビライの大元ウルスへ移住しました。チャガタイの庶長子モチ・イェベの孫であるバイダカンもその一人で、1270年に大元ウルスに移住し、王爵を授与されました。バイダカン率いる遊牧集団は疲弊していたため、遊牧生活を続けられる者はジュンガリア西部のコンクル・オルンに、そうでない者は河西の諸城（粛州、沙州、甘州）に収容されました。

大元ウルスに移住したチャガタイ系諸王は河西地方に居住し、クムルを拠点とするチュベイを中心とした緩やかなまとまり（チュベイ・ウルス）を形成していました。バイダカンもチュベイと共にカイドゥの軍勢と戦いました。クムルの豳王家が中心となり、周囲のチャガタイ系王家が連合体を形成するという状況は明代に入っても変わらず、哈密衛（チュベイ家）、安定衛（バイダカン家）、沙州衛（スレイマン家）の関係に引き継がれました。

バイダカンの後を継いだトガンは、1313年に安定王に封ぜられました。泰定年間にはトガンの息子のドルジバルが安定王位を継承し、明朝成立まで安定王家は存続しました。

安定衛史

安定衛の成立

明朝成立時、安定王家を継承していたのはブヤン・テムルでした。1374年、ブヤン・テムルは明朝に使者を派遣して冊封を受け、阿端方面の酋長にも銅印が支給されました。翌1375年、ブヤン・テムルは明朝に官職を求める請願を行い、これを受けて洪武帝は安定衛と阿端衛を設置しました。しかし、1377年にはブヤン・テムルとその息子が曲先衛の者達に殺害される事件が発生し、その後も番将ドルジバルがこの一帯で転戦したため、サリク・ウイグル地方は荒廃しました。安定衛の混乱は1396年にようやく沈静化し、明朝は改めて安定衛指揮使司を設置しました。

バイダカン安定王家

バイダカン（Baidaqan, 拝答寒）
安定王トガン（Toγan, 安定王脱歓）
安定王ドルジバル（Dorǰibar, 安定王朶児只班）
安定王ブヤン・テムル（Buyan Temür, 安定王卜煙帖木児）

安定衛統治者

安定王ブヤン・テムル（Buyan Temür, 安定王卜煙帖木児）
安定王亦攀丹（亦班丹）…ブヤン・テムルの孫
安定王桑児加失夾
安定王領占斡些児（領占俄些児/領真斡即児）
安定王千奔

脚注

1. 参考文献
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年

2. 関連項目
阿端衛
曲先衛

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