阿端衛

阿端衛（あたんえい）とは

阿端衛は、明朝が河西回廊に設置した羈縻衛所の一つで、現在の中国甘粛省、青海省、新疆ウイグル自治区の境界線上に位置していました。この衛所は、チャガタイ系安定王家から派生し、安定衛との間で統廃合を繰り返しながら、最終的には正統年間にその歴史を終えました。

設置の背景

阿端衛が設置された地域は、サリク・ウイグル（現代のユグル族）が居住する地で、元代からチャガタイ系安定王家の勢力圏でした。1374年、安定王ブヤン・テムルは明朝に使いを送り、明朝の冊封を受け入れ、阿端方面の酋長にも銅印が支給されました。翌1375年、ブヤン・テムルは再び明朝に使者を派遣し、官職を授かることを求めました。これを受けて、洪武帝は安定衛と阿端衛を設置しました。

しかし、1377年に安定衛のブヤン・テムルとその息子が曲先衛の者に殺害される事件が発生。その後の混乱で、サリク・ウイグル地方は荒廃し、阿端衛は一時的に廃止されることになりました。

阿端衛の復活

1406年、阿端方面の頭目小薛忽魯札が明朝に朝貢し、阿端衛の復活を嘆願。永楽帝はこれを許可し、ソセ・クルジャ（小薛忽魯札）を阿端衛指揮僉事に任命しました。

宣徳年間、阿端衛指揮僉事のスルタン（瑣魯丹）が曲先衛の散即思による反乱に加担したため、明朝の報復を恐れて逃亡。しかし、1431年に鎮守西寧都督の史昭が、瑣魯丹は脅迫されたと弁護し、阿端衛の再招撫を上奏。宣徳帝はこれを受け入れました。

1432年には、阿端衛の指揮同知真只罕が安定王亦攀丹と共に明朝に使者を派遣。宣徳帝はジェンジカン（真只罕）を阿端衛指揮僉事に任命し、卜答兀を補佐に付けました。真只罕は、阿端衛の旧城が中央アジアとの境界に近く、朝貢が困難であるため、本土への移住を願い出ました。宣徳帝はこれを認め、真只罕に印璽と璽書を授けました。その後、阿端衛は明朝に頻繁に朝貢使を派遣するようになりました。

阿端衛の終焉

1436年、阿端地方の頭目シャー・ハサン・ミルザが使臣としてウマルら30人を派遣しましたが、途中で略奪に遭い、9人だけが北京にたどり着きました。明朝は略奪を指示した者に返還を命じました。

1437年には、阿端地方の頭目サラムシャー・ミルザがティムール朝などの西方勢力と共同で使者を派遣し、明朝から下賜品を受けました。1443年には、阿端衛指揮同知の準者罕が指揮使に昇格しました。

1445年、阿端地方の頭目ババジ、バヤジットらが使者を派遣し、明朝から下賜品を得ました。

正統年間末期、明朝とエセン・タイシ率いるドルベン・オイラトとの抗争が激化。1447年には、阿端を含む河西地方から軍馬が徴収され、翌1448年には、阿端を含む河西地方がオイラトの支配下に入り、阿端地方からはバイランシャやホージャ・マフムードらがオイラトと共同で使者を明朝に派遣するようになりました。この頃、「阿端衛」は完全に解体されたと考えられており、その後復活することはありませんでした。

阿端地方の統治者

バイダカン安定王家

バイダカン（Baidaqan、拝答寒/Bāīdaghān）
安定王トガン（Toγan、安定王脱歓/Ṭūghān）
安定王ドルジバル（Dorǰibar、安定王朶児只班）
安定王ブヤン・テムル（Buyan Temür、安定王卜煙帖木児）

阿端衛統治者

阿端衛指揮僉事ソセ・クルジャ（小薛忽魯札）
阿端衛指揮僉事スルタン（瑣魯丹）
阿端衛指揮同知ジェンジカン（真只罕/準者罕）

阿端地方頭目

シャー・ハサン・ミルザ（捨哈三米児咱）
サラムシャー・ミルザ（撒剌馬沙米児咱）
ババジ（把把竹）
バヤジット（拝牙即）
バイランシャ（伯藍舎）
ホージャ・マフムード（火者馬黒麻）

脚注

杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
* 『明史』巻330列伝218

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