安田浩

安田 浩（やすだ ひろし）

安田 浩は、1944年に生まれ、2024年7月25日に逝去した日本の著名な計算機科学者です。工学博士として、長年にわたり情報通信技術の研究開発と教育に貢献しました。特に、画像処理や画像符号化技術の分野で先駆的な業績を残し、その後のデジタルメディア社会の基盤構築に重要な役割を果たしました。

研究と標準化への貢献

東京都出身の安田氏は、東京大学大学院工学系研究科で電子工学を修了後、日本電信電話公社（現在のNTT）に入社しました。武蔵野通研を中心に、画像情報通信技術の研究開発に精力的に取り組みました。この時期に培われた技術的知見は、国際的な標準化活動へと結実します。彼は、静止画の圧縮符号化規格であるJPEGや、動画・音声の圧縮符号化規格であるMPEGといった、今日のデジタルコンテンツ流通に不可欠な国際標準規格の策定において中心的な役割を担いました。ISO/IECの標準化委員会（JTC 1/SC 29）の議長を長年務め、国際的な合意形成に尽力しました。これらの標準化への貢献は国内外で高く評価され、1996年には米国テレビジョンアカデミーからエミー賞技術開発部門を、映像分野への功労として受賞しています。

多分野への展開とセキュリティ研究

標準化活動と並行して、安田氏の研究テーマは多様に広がりました。知的財産権保護技術の研究にも携わる一方、人間の感覚に寄り添った映像表現や配信技術を目指す感性工学の研究を進めました。さらに、インターネットの普及に伴い重要性を増すセキュリティ技術にも活動の重点を移します。ユビキタス社会における情報セキュリティのあり方を探求し、技術だけでなく、社会、人間といった複合的な視点からサイバー空間の安全を確保する「複合領域サイバー・セキュリティ技術（MCST）」の概念を提唱しました。

教育者・リーダーとしての活動

NTTでの研究開発および要職を経て、安田氏は教育・研究機関においても重要な役割を果たしました。1997年に東京大学先端科学技術研究センター教授に就任し、後進の指導にあたるとともに、東京大学国際・産学共同研究センター長も務めました。2007年には東京電機大学に移籍し、未来科学部の教授として、また総合メディアセンター長、未来科学研究科委員長、学部長などを歴任しました。2016年には東京電機大学の学長に就任し、大学運営のトップとして指揮を執りました（2019年辞任）。これらの学術・教育分野での長年の功績に対し、2007年には東京大学名誉教授の称号が授与されています。また、2009年春には学術研究における顕著な功績が認められ、紫綬褒章を受章しました。

社会活動と受賞歴

安田氏は、学会や公的な委員会においても精力的に活動しました。電子情報通信学会会長、内閣府や総務省、文化庁などの様々な審議会や委員会の委員・座長、安心・安全インターネット推進協議会会長、情報処理推進機構（IPA）の委員などを歴任し、情報通信技術や標準化、セキュリティに関する政策提言や業界の発展に貢献しました。また、一般社団法人日本スマートフォンセキュリティ協会（JSSEC）会長として、モバイルセキュリティの啓発・向上にも尽力しました。

彼の研究開発、標準化、教育、社会活動における功績は多岐にわたり、エミー賞、紫綬褒章に加え、電子情報通信学会米澤記念学術奨励賞、高柳記念賞、丹羽高柳賞、IEEE Charles Proteus Steinmetz Award、情報通信月間総務大臣表彰、(ISC)²セキュリティ貢献賞、内閣官房長官個人功労賞、工業標準化内閣総理大臣賞、(ISC)² Harold F. Tipton Lifetime Achievement Awardなど、数多くの権威ある賞を受賞しています。

情報通信技術の黎明期から普及期、そして成熟期に至るまで、安田氏は常に時代の最先端で研究開発を牽引し、国際標準化、技術教育、社会基盤の構築に多大な貢献をした人物として、その功績は長く記憶されるでしょう。

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