安納いも

安納いも

安納いもは、鹿児島県種子島で栽培されるサツマイモのブランドです。特に「安納紅」と「安納こがね」の2つの品種が知られています。種子島北部の安納地区で生まれたこのサツマイモは、強い甘みと、焼くとねっとりとした食感になるのが特徴で、「蜜芋」とも呼ばれています。

概要

安納いもは、種子島北部の安納地区にある農業試験場で、古くから栽培されていた品種を改良して誕生しました。1998年には、皮が赤い「安納紅」と皮が淡黄色の「安納こがね」が品種登録されました。当初は安納地区限定で栽培されていましたが、その後、他の地域でも栽培されるようになりました。2022年には「種子島安納いも」として地理的表示保護制度(GI)の対象品目に登録されています。

安納いもの特徴は、蒸した後のショ糖含有量が他のサツマイモに比べて非常に高いことです。そのため、甘みが非常に強く、水分も多いため、焼くとねっとりとした食感になります。収穫後すぐに食べるよりも、1ヶ月ほど追熟させることでさらに甘みが増します。焼き芋にすると、蜜のように甘いことから「蜜芋」と呼ばれ、サツマイモの中でも特に人気があります。焼き芋だけでなく、天ぷらやスイートポテト、干し芋、デザートの材料など、様々な料理に使われています。

歴史

安納いものルーツには諸説ありますが、種子島では「第二次世界大戦後、復員兵がスマトラ島北部から持ち帰ったサツマイモが起源」とされています。しかし、近年のDNA品種識別調査により、1930年代に沖縄県で交配され、石川県の試験地で選抜された「兼六」という品種が安納紅とその前世代の安納3号と非常に近い関係にあることが判明しました。安納紅は「兼六」の品種内変異と考えられています。「兼六」は日本各地で栽培されており、良食味の品種として種子島に持ち込まれ、安納いものベースになった可能性があります。

第二次世界大戦後、九州農業試験場で試作されたサツマイモは、食味が良かったため、周辺の安納地区で栽培されるようになりました。これが「安納いも」と呼ばれるようになったきっかけです。また、栽培者名にちなんで「あっきーいも」という別名も使われていましたが、同一圃場内でも個体差が大きかったため、島内での流通にとどまっていました。

1980年代の種子島では、サツマイモは重要な基幹作物であり、普通畑の30%で栽培され、サトウキビとの輪作作物としても利用されていました。当時のサツマイモの用途の90%以上がデンプン生産用でしたが、1990年代にデンプンやブドウ糖の輸入自由化が決まったため、デンプン用サツマイモは他の用途や品種への転換を迫られました。

種子島ではサツマイモの代替となる作物が少なかったため、青果用への転換が模索されました。その中で、自家消費されていた紅系の「安納いも」と紫系の「種子島紫」が特に優れていることが注目されました。1989年から鹿児島県農業試験場と熊毛地区が協力して個体選抜と系統選抜を開始し、両品種は島外への輸送コストをまかなえるだけの優位性を持つと期待されました。しかし、形状や個体間のバラツキ、収量性に問題があったため、市場向けに品質改良が進められました。その結果、形状、大きさの安定性や収量性に優れた品種が選抜され、1998年に安納紅と安納こがね、1999年には種子島紫から種子島ろまんと種子島ゴールドがそれぞれ品種登録されました。

1990年にアリモドキゾウムシの侵入により、サツマイモの島外持ち出しが禁止されていましたが、1998年に島内での根絶が確認され規制が解除されました。その後、県内外への販売促進活動が積極的に行われ、2007年にテレビで取り上げられたことをきっかけに全国的な人気が高まりました。栽培面積と生産量は、2006年の81ヘクタール、1,246トンから、2009年には434ヘクタール、7,294トンへと大幅に増加しました。

品種登録から15年後の2013年には育成者権が失効したため、種子島以外の地域でも自由に栽培・販売できるようになりました。この動きに合わせて、種子島では「安納いもブランド推進本部」が設立され、品質管理などの取り組みが進められています。2022年には「種子島安納いも」として地理的表示保護制度(GI)対象品目にも登録されています。

品種

安納紅

安納紅は、西之表市安城立山で栽培されていた在来系統の「安納いも」に、「安納紅3号」の系統名を付与し、1988年から鹿児島県農業試験場・熊毛支場で個体選抜を行って育成されました。1998年に品種登録されました。収量特性は、株あたりの上いも個数が6.9個、上いも1個重は172グラムです。

安納こがね

安納こがねは、1989年に西之表市の圃場で収集された在来の「安納いも」から生まれた品種です。1990年に熊毛支場で皮が黄褐色の個体が現れ、安納いもの変異個体と確認されました。「種子島紅4号」という系統名が付けられ、安納紅と同じく1998年に品種登録されました。収量特性は、株あたりの上いも個数が6.7個、上いも1個重は191グラムです。

栽培

安納いもの種イモは、ゴツゴツとした形と濃い皮色が特徴です。種イモの両端を切り落とし、温床に20cm間隔で植え、籾殻燻炭や藁で保温して発芽させます。新芽が赤くなるのが特徴で、葉が6-7枚になったら茎を切り、2日間乾燥させてから、発根を促します。畑には高畝を立て、窒素過多による「つるボケ」を防ぐため、米ぬかや藁を入れます。畝の中央に株間30cmで苗を斜めに植え付けます。夏には「つる返し」を行い、秋に収穫します。収穫後は、晴れた日に乾燥させてから保存します。

生産

2020年、安納紅と安納こがねは合計582ヘクタールで栽培され、日本全体のサツマイモ栽培面積の1.9%を占めました。安納紅は鹿児島県、高知県、秋田県、愛知県、茨城県で、安納こがねは鹿児島県と富山県で栽培されています。2016年から栽培面積はわずかに減少していますが、シェアはほぼ変わっていません。

種子島では4月から6月に定植、8月から11月に収穫が行われます。マルチ栽培では定植から120日後、露地栽培では140日後が収穫の目安です。2018年に初めて確認された基腐病は、2020年に種子島で全作付面積の5割以上で確認され、生産量に大きな影響を与えています。

地理的表示・種子島安納いも

種子島では1999年に「種子島いも研究会」が設立され、栽培技術に関する研修会が開かれています。2010年には、種子島の3市町と鹿児島県、JA種子屋久が「安納いもブランド推進本部」を設立し、ブランド管理を行っています。この推進本部は、2008年に設立された「安納いも出荷販売協議会」が母体となっています。

ウイルスや病気による品質低下を防ぐため、JA種子屋久や鹿児島県立種子島高校などで増殖されたウイルスフリー苗が使われています。また、「安納いも品評会」で入賞した芋をもとに優良系統の選抜が行われています。種子島の土壌はミネラルが豊富ですが有機物が少ないため、石灰資材の投入や緑肥の鋤き込みなどが行われています。

収穫された安納いもは、低温貯蔵庫で1ヶ月ほど貯蔵し、糖度を高めます。収穫直後には9%程度の糖度（Brix値）が、消費者に好まれる10.7%以上になったものには、安納いもブランド推進本部から糖度審査認証シールが与えられています。

これらの地域的な取り組みが評価され、2022年に「種子島安納いも」として地理的表示保護制度(GI)対象品目に登録されました。

登録された「種子島安納いも」は、以下の条件を満たしている必要があります。

品種: 安納いもブランド推進本部が推薦するもの
栽培: マルチ作型、裸地作型、本圃型育苗作型のいずれかにより栽培し、年内に収穫したもの
貯蔵: 常温ないし冷蔵により、同推進本部が推奨する日数貯蔵したもの
出荷規格: 同推進本部の「安納いも品質統一基準」の「外観に関する基準」に基づき、青果用または加工用とする
* 最終製品としての形態: 青果とする

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