安良城盛昭

安良城 盛昭（あらき もりあき、1927年5月10日 - 1993年4月12日）は、日本の昭和期を代表する歴史学者のひとりです。特に社会構成史の視点から幅広いテーマを研究し、多くの論争を巻き起こしました。東京府で生まれましたが、両親は沖縄県出身であり、このルーツが彼の研究の方向性に大きな影響を与えることになります。

東京大学経済学部で学んだ安良城は、1953年の卒業時に提出した太閤検地に関する論文を学術雑誌『歴史学研究』に発表。この論文は、当時の歴史学界に「安良城旋風」と呼ばれるほどの衝撃を与えました。経済学部出身でありながら、古文書読解能力は児玉幸多から手ほどきを受け、研究面では永原慶二、所三男、林基、山口啓二といった著名な歴史学者から指導を受けています。安良城は、中世日本を家父長的奴隷制社会と捉え、太閤検地を生産様式の変革を伴う画期的な土地政策として位置づけました。そして、この検地を契機として、近世および封建社会が成立したと論じたのです。これは、太閤検地の歴史的評価を根本から問い直すだけでなく、日本の時代区分論にも新たな視点を提示し、活発な議論を巻き起こしました。

初期の研究はさらに地主制の成立史へと展開し、近代的な地主制がいつ確立したのかを巡って、歴史学者の中村政則との間で激しい論争が繰り広げられました。1960年には東京大学社会科学研究所の助教授に就任し、研究活動を精力的に続けました。

安良城の研究の根底には、マルクス主義歴史学からの強い影響がありました。彼は自らの研究を「社会構成史」と名付け、古代律令制を「アジア的相対的奴隷制」、中世荘園制を「家父長制的奴隷制」、近世幕藩制を「農奴制」といった社会構成体として位置づけました。太閤検地や地主制研究を出発点として、古代から近現代、さらには政治、経済、社会、文化といった多岐にわたる分野へと研究対象を広げていった安良城の一連の成果は、「安良城理論」と称されるようになりました。

安良城のキャリアにおける大きな転換点は、沖縄返還の年である1972年に東京大学社会科学研究所を辞職し、翌1973年に沖縄大学法経学部教授に就任したことでした。彼はその後、沖縄県に移住し、1978年には沖縄大学学長および運営母体である嘉数学園理事長に就任します。沖縄移住後、安良城は沖縄全域を巡り、琉球史の研究に本格的に着手しました。地割制度や旧慣温存政策、辞令書といったテーマで独自の分析を展開するとともに、伊波普猷の業績を再評価しました。さらに、沖縄と日本本土を比較研究することの重要性を説き、日本本土だけを見ているだけでは見えない日本史の側面があること、そして日本の戦国時代以降、本土の様々な社会矛盾が琉球・沖縄に凝縮して現れていると指摘しました。「沖縄から日本がよく見える」という安良城の視点は、その後の研究にも深く根差すことになります。

1980年、安良城は大阪府立大学総合科学部教授に招かれ、拠点を大阪に移しました（1991年に名誉教授）。大阪に移ってからも、沖縄での研究成果を土台として、天皇制や被差別部落に関する研究を進めました。

しかし、1960年代以降、「安良城理論」に対する批判的な研究も増加していきます。太閤検地における下人の身分を巡っては、黒田俊雄が奴隷身分とする見方に批判的な立場から論争を展開しました。また、近世的な土地制度の萌芽が戦国時代に見られたとする勝俣鎮夫とも激しい議論を交わしました。さらに、昭和天皇の病状悪化を契機に関心が高まった天皇制研究では、中世・近世の天皇の性格を巡って網野善彦（いわゆる「網野史観」）と激しい論争を行い、互いの社会史研究に対しても厳しい批判を向け合いました。晩年は被差別部落の研究に力を注ぎ、中世において「社会的身分」であった賎民が、幕藩体制と鎖国体制の展開に伴い近世の「制度的身分」へと変化していく過程を明らかにしようと試みました。しかし、その研究途上であった1993年、65歳で惜しくもこの世を去りました。その多岐にわたる研究と論争は、日本の歴史学に大きな影響を与え続けています。

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