安道寺遺跡

安道寺遺跡：縄文時代の精神文化を伝える複合遺跡

安道寺遺跡は、山梨県甲州市塩山下粟生野に位置する複合遺跡で、縄文時代中期（五領ヶ台式期から曽利式期）を中心とした集落跡と、平安時代の遺構が確認されています。この遺跡から出土した遺物は、2015年に山梨県の指定有形文化財となりました。

遺跡の概要

遺跡は、甲府盆地の東部、笛吹川の支流である重川左岸の、標高約500メートルの沖積台地上に位置しています。県内では、笛吹市の一の沢遺跡や甲府市の上の平遺跡と並び、縄文中期前半の集落遺跡として知られています。周辺は縄文集落が分布する地域であり、古くから古墳時代の土器が出土することが報告されていました。

1979年の灌漑用管水路埋設工事に伴い、山梨県教育委員会が発掘調査を実施。調査範囲は限られていましたが、遺構や出土遺物が確認され、拠点集落であった可能性も指摘されています。

発掘調査の成果

発掘調査では、縄文中期の竪穴建物跡19軒、土器集石遺構1基、土器埋設遺構2基が確認されました。建物跡は、五領ヶ台式期、狢沢～新道式期、藤式内期、井戸尻式期、曽利1式期、曽利2式期に分類されます。埋甕や配石遺構に加え、11号建物跡からはイノシシ装飾の獣面把手土器が埋設された土坑や、水煙状把手付土器が配置された特殊な土坑が発見されました。また、平安時代の建物跡も1軒確認されています。

出土遺物としては、水煙状把手付土器、曽利Ⅰ式期の深鉢形土器（大型装飾土器）、蛇体文様のある有孔鍔付土器などの縄文土器、土偶、台形土器、石鏃、打製石斧、凹石、磨石などの生活用具が出土しています。

大型装飾土器の埋納

17号建物跡から出土した大型装飾土器は、土坑内に丁寧に埋納された状態で発見されました。この土器は曽利Ⅰ式の深鉢形土器で、高さ37センチメートル、4つの装飾把手を有します。土器は、深さ70センチメートル、最大径65センチメートルの建物内土坑に、3層にわたって埋納されていました。

最下部には、内部に焼土が充填された小型土器が横たえられ、その周囲には別の大型装飾土器の装飾把手部分4片が配置されていました。中層には、問題の大型装飾土器の胴体上半部破片が重ねられ、最上部には底辺部破片が重ねられていました。このような出土状況から、大型装飾土器を意図的に破壊し、特定の順序で埋納する儀礼が行われていたと考えられています。

縄文中期に出現する大型装飾土器は、完形またはそれに近い状態で出土することが多いですが、安道寺遺跡のように破壊して土坑内に埋納された事例は少ないため、その意味が注目されています。山梨県内では、北杜市の甲ツ原遺跡でも同様の事例が確認されています。

安道寺遺跡は、縄文時代の集落構造や精神文化を理解する上で重要な遺跡であり、特に大型装飾土器の埋納遺構は、当時の人々の精神世界を考察する上で貴重な資料を提供しています。

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