安部正義

安部正義（あべ せいぎ、1891年5月18日 - 1974年6月4日）は、日本の作曲家、教会音楽家として知られています。宮城県仙台市に生まれた彼は、東北学院中学部を卒業後、アメリカに渡り、ニューイングランド音楽院で声楽、ピアノ、作曲を学びました。1927年に帰国するまでの間、彼は音楽家としての基礎を築き、数々の作品を生み出しました。

ニューイングランド音楽院では、スチュアート・C・メイソン、F.S.コンヴァース、ジョージ・W・チャドウィックらに師事し、作曲科のエンドカット賞コンクールで3年連続入選、優等賞を受賞するなど、その才能を開花させました。アメリカ滞在中の主要作品には、小オーケストラ組曲「小川のほとりに」、「橋の上にて」、オーケストラのための序曲「あけぼの」、交響詩「ボストン生活の思い出」などがあります。

帰国後は、東北学院や明治学院で教鞭を執る傍ら、教会音楽の発展に尽力しました。第二次世界大戦後は、基督教音楽学校の教務主任として、教会音楽の向上に力を注ぎました。『讃美歌』や『青年賛美歌』の編集委員を務めたほか、由木康の『まぶねのなかに』に曲を付けるなど、その活動は多岐にわたります。

安部正義の代表作として知られるのが、オラトリオ《ヨブ》です。この作品は、日本人作曲家による最初のオラトリオであり、旧約聖書のヨブ記に基づいています。1930年に構想を始めたこの作品は、1945年の明治学院退職まで、継続的に作曲されました。安部自身は、この作品について「幼少期からの苦難の経験から、ヨブの苦しみと信仰に共鳴し、その信仰を音楽で表現したい」と語っています。

彼は、形式に捉われず、誰にでも理解しやすい音楽を目指し、古いモードや現代的な音階を避け、教会音楽に親しみやすい曲作りを心がけました。この作品は、賛否両論ありましたが、安部正義はヨブの信仰を音楽で表現することに全力を尽くしました。

元駐日アメリカ大使のエドウィン・ライシャワー氏は、オラトリオ《ヨブ》の楽譜初版（1965年）に「安部正義のオラトリオ『ヨブ』の出現は、この分野における著しい発展の証である」と賛辞を寄せています。

《ヨブ》の主な演奏会は、以下の通りです。

1967年5月21日、明治学院チャペルでの初演（明治学院大学グリークラブ主催）
1967年6月24日、文京公会堂での明治学院大学グリークラブ第19回定期演奏会
1969年5月25日、東京文化会館での管弦楽版初演（日本基督教文化協会主催）
1969年6月14日、明治学院チャペルでの明治学院大学グリークラブ第21回定期演奏会
* 1975年6月28日、明治学院チャペルでの明治学院大学グリークラブ第27回定期演奏会

これらの演奏会では、多くの音楽家や合唱団が参加し、安部正義の作品を世に広めました。安部正義は、長年の教会音楽への貢献が認められ、1967年には中田羽後らと共にキリスト教功労者を受賞しました。

彼の作品は、教会音楽だけでなく、日本の音楽史においても重要な位置を占めています。安部正義の音楽は、彼の信仰と情熱を反映し、多くの人々に感動を与え続けています。

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