安部真知

安部 真知（あべ まち）は、大正15年（1926年）に生まれ、平成5年（1993年）に逝去した日本の著名な舞台美術家です。作家として internationally recognized であった安部 公房（あべ こうぼう）の妻であり、公房作品の舞台化において重要な役割を果たしました。旧姓は山田、本名は真知子といい、大分県西国東郡高田町（現在の豊後高田市）の出身です。

生い立ちと教育

大分県豊後高田市の廻船問屋を営む山田清・ノブ夫妻の次女として、1926年8月26日に生を受けました。1944年には大分県立高田高等女学校（現・大分県立高田高等学校）を卒業。六人兄姉の中で唯一、母親の強い後押しを得て上京し、女性の美術教育機関として知られる女子美術専門学校（現・女子美術大学）日本画部師範科に進みました。同校を1947年に卒業後、後に夫となる安部公房と巡り合い、生活を共にするようになります。

舞台美術家としてのキャリア

安部真知の舞台美術家としての活動は、1958年の劇団俳優座公演「幽霊はここにいる」で装置を担当したことをきっかけに本格化しました。特に夫である安部公房の作品世界を舞台上で具現化する役割を担い、「棒になった男」をはじめとする数々の公房作品の舞台美術を手がけました。その仕事は、公房の難解で experimental な世界観を、視覚的な要素として観客に提示する重要な鍵となりました。また、舞台美術だけでなく、安部公房の著作の装幀や挿絵も担当し、文字と視覚の両面から公房作品に関わりました。

彼女の舞台美術は高く評価され、様々な賞を受賞しています。1969年には、劇団俳優座公演「狂人なおもて往生をとぐ」と紀伊國屋演劇公演「棒になった男」の装置により、紀伊國屋演劇賞を受賞。1972年には、「オセロ」や「未必の故意」など、複数の舞台作品における功績が認められ、第5回伊藤熹朔賞に輝きました。同年、劇団俳優座が上演した「リア王」の舞台装置では、昭和47年度（第27回）芸術祭賞演劇部門優秀賞を受賞するなど、演劇界における舞台美術の功労者としての地位を確立しました。

多岐にわたる劇団の公演に参加し、安部公房作品以外にも、古典から現代劇まで幅広い作品の美術を手がけました。活動の記録として、1958年の劇団舞芸座「泥棒論語」から始まり、1990年の劇団民藝「どん底」に至るまで、数多くの舞台美術リストが残されています。

人物像

安部真知は、夫・公房の最も深い理解者であり、作家・大江健三郎からは「精神的な同志」と評されるほど strong な bond で結ばれていました。夫婦は共に driving を趣味とし、1960年の同じ日に運転免許を取得して以来、互いに運転技術を競い合うほどでした。公房が外出先で飲酒する際には、真知が運転手として付き添うことも多く、夫妻は鈴鹿サーキットに毎年通うほどの熱心な automobile 趣味を共有していました。一時期は3台の車を所有し、用途に合わせて使い分けていたといいます。

また、真知は編み物が得意で、自作のニットワンピースやストールを愛用していました。スカーフや個性的なアクセサリーを巧みに取り入れ、色やデザインを楽しむなど、独自の fashion sense を持っていた人物でした。

夫・安部公房が1993年1月に亡くなった後、真知は遺された原稿の整理に精力的に取り組んでいました。全集刊行に向けた作業の中で、未完の絶筆などが発見されるなど、公房の literary heritage を後世に残すための重要な役割を担っていました。同年9月初旬には、作曲家の武満徹夫妻や文芸評論家のドナルド・キーン氏と共に旅行に出かけるなど、活動的な日々を送っていましたが、9月24日午前、急性心筋梗塞のため、東京・調布市の自宅で突然の訃報に接することとなりました。その突然の死は、多くの関係者や知人に悼まれました。葬儀の喪主は、長女の真能ねりが務めました。

安部真知は、夫・安部公房の異様なまでに創造的な世界を現実の舞台空間へと翻訳する比類なき才能によって、日本の現代演劇史に確かな足跡を残しました。

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