安野譲

安野譲

安野譲（やすの じょう、1872年 - 没年不明）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家、貿易商です。岐阜県大垣市出身で、大阪を本拠地とする岩井財閥（後の双日）において、その手腕を発揮しました。

生涯

1872年（明治5年）10月18日、安野譲は大垣にて士族・安野芳三郎の長男として生を受けます。幼くして両親を亡くした後、1885年（明治18年）に岩井文助が主人を務める大阪の加賀屋に入店。当時、加賀屋は石油と西洋雑貨を扱う店として知られており、従業員は20名にも満たない規模でしたが、大阪では名の通った存在でした。

1889年（明治22年）、岩井文助の長女・栄子と結婚した甥の蔭山勝次郎が岩井家の婿養子となります。その後、岩井勝次郎は1896年（明治29年）7月に義父である文助から二十万円の貸与を受けて独立し、大坂東区南久太郎町に岩井商店を開業しました。安野譲は、この岩井商店の設立当初から勝次郎の右腕として、その発展に大きく貢献しました。

1899年（明治32年）4月には東京支店が設立され、安野譲は翌年、その支配人となります。1907年（明治40年）に岩井商店が品川区上大崎の白金莫大小（しろがねメリヤス）の経営権を得た際には、譲が社長として経営を担いました。1911年（明治44年）10月には尾上梅太郎を伴い、日本郵船の加賀丸でインドおよび欧州を視察し、翌年6月に帰国。海外の最新事情を学び、事業の拡大に活かしました。1912年（大正元年）10月、株式会社岩井商店が成立。1916年（大正5年）10月には、関連会社を統括する持株会社として合資会社岩井本店が資本金三百万円で設立され、譲は岩井家以外で唯一の無限責任社員となりました。同年12月、社用で英国へ向かう安野譲が米国までの船で知り合った岩瀬徳三郎は、後に東ソーを創業。この出会いが、岩瀬徳三郎の岩井商店入りに繋がりました。

1917年（大正6年）7月には岩井商店専務取締役に選任され、1918年（大正7年）5月には関西ペイント創立に伴い、初代取締役社長に就任しました。1921年（大正10年）に中央毛絲紡績が設立されると、その取締役も兼任し、その他、日本橋梁の取締役、大日本セルロイド、日本曹達工業、大阪鐵板製造の各監査役など、数多くの岩井財閥関連会社で役員を務めました。しかし、1928年（昭和3年）12月、病気を理由として株式会社岩井商店の役職を退任しました。

1930年（昭和5年）12月、資本金二十万円で安野毛糸紡績株式会社を設立し、社長に就任。1944年（昭和19年）には長男・譲次を社長とする中部紡織株式会社が設立され、安野毛糸紡績の事業を引き継ぎました。安野譲の没年は不詳ですが、1951年（昭和26年）9月には一宮商工会議所主催で合同追悼会が開かれています。

家族

安野譲は、チヨ夫人との間に多くの子を儲けました。長女の雪は黒柳謙吉と結婚し、二女の八重は藤村松雄と、三女の波は蘆澤利明とそれぞれ家庭を築きました。長男の安野譲次は、父の事業を引き継ぎ、中部紡織の社長を務めました。また、妹のこふは富本仁三郎に嫁ぎ、甥の木下茂は岩井商店を経て木下産商（木下商店）を設立し、日本最大の鉄鉱石輸入商社に成長させました。

事件

1916年（大正5年）には、安野譲の長女である雪が、日本橋の三越呉服店付近で通り魔に襲われるという痛ましい事件が発生しました。

安野譲は、岩井財閥の発展に大きく寄与しただけでなく、その一族もまた、様々な分野で活躍しました。彼の生涯は、日本の近代経済史における重要な一ページとして、記憶されるべきでしょう。

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