完顔承麟

完顔承麟（わんぎゃん しょうりん）は、金の第10代にして最後の皇帝です。彼は世祖劾里鉢（ヘリンボ）の息子の一人で、太祖阿骨打（アクダ）や太宗呉乞買（ウーキマイ）の血を引く末裔でした。父の名は不詳で、兄に完顔白撒（わんぎゃん びゃくさつ。漢名は承裔）がいました。死後、昭宗、末帝、後主と称されました。

哀宗の時代に東面元帥となり、軍事将軍としても活躍。哀宗は彼の勇気と才能を高く評価していました。天興元年（1232年）頃、兄の完顔白撒がプチェンでの戦いで戦死するという悲劇に見舞われます。

天興3年（1234年）、金は蔡州城（現在の河南省汝南県）でモンゴル帝国のタガチャル軍による包囲を受け、滅亡の危機に瀕していました。哀宗は自らの死期を悟り、族兄である完顔承麟に譲位を決意します。当初、完顔承麟は皇帝即位を固辞しましたが、哀宗は金朝最後の皇帝として歴史に名を残したくないという強い意志を持っていました。また、哀宗は「私は体が太っていて、馬に乗って戦場を指揮することができない。もし蔡州城が陥落すれば、馬で逃れることも難しいだろう。しかし、そなたは体力があり、強靭で、軍事指導者としての才能にも長けている。もし蔡州から脱出することができれば、金朝の命脈を保ち、いつか復興を果たすことができるかもしれない」と説得しました。その熱意に打たれ、完顔承麟はついに即位を受け入れることを決意します。

即位式が始まった直後の正月10日（2月9日）、敵軍が城壁を破ったという知らせが届きます。哀宗は城奥の幽蘭軒において自ら縊死しました。一方、完顔承麟は兵を集め、街路でモンゴル軍と激戦を繰り広げます。しかし、最終的に都心部まで退却を余儀なくされ、そこで哀宗の死を知らされます。残された廷臣を集め、哀宗の死を悼む儀式を行い、「哀宗」という廟号を定めました。完顔承麟は蔡州城からの脱出を試みましたが、モンゴル軍に捕らえられ、処刑されました。その首は晒され、ここに金は太祖阿骨打の建国以来、119年の歴史に幕を閉じたのです。完顔承麟の在位期間は、中国史上において最も短い皇帝の一人として記録されています。

死後、完顔承麟は涇州涇川県太平郷に埋葬され、昭宗の廟号が贈られました。歴史家は彼を金朝の「末帝」（文字通り「最後の皇帝」）と呼んでいます。

完顔承麟は、滅亡寸前の金朝を託された悲劇の皇帝であり、その短い生涯は金の滅亡とともに終わりを告げました。彼の死は金王朝の終焉を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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