宍倉正展

宍倉 正展

宍倉 正展（ししくら まさのぶ）は、日本の地震学者です。国立研究開発法人産業技術総合研究所において、海溝型地震、特に巨大地震の発生履歴に関する研究を推進するグループの長を務めています。

経歴

1969年9月、千葉県夷隅郡大多喜町に生まれます。地元の千葉県立長生高等学校を卒業後、千葉大学理学部地学科に進学し、地球科学を専攻しました。同大学院自然科学研究科の博士課程を修了し、2000年に理学の博士号（甲第1807号）を取得しています。博士論文のテーマは、房総半島の完新世における海岸段丘と地殻変動に関するもので、後の研究の基礎を築きました。

大学院修了と同時に、当時の通商産業省工業技術院地質調査所に入所し、研究者としてのキャリアをスタートさせます。その後、組織再編を経て産業技術総合研究所に移籍。活断層研究センターでの活動を経て、海溝型地震の履歴研究部門に携わるようになります。2009年には海溝型地震履歴研究チーム長に就任し、2014年からは海溝型地震履歴研究グループ長として、この重要な研究分野を牽引しています。

研究内容

宍倉氏の専門は古地震学および歴史地震学です。これは、過去に発生した地震の痕跡を地質学的手法や歴史資料を用いて調査し、その規模や発生時期、再来間隔などを明らかにする学問分野です。特に、巨大地震が発生した沿岸地域における海岸地形の変化や津波によって堆積した地層（津波堆積物）の調査を精力的に行っています。

例えば、房総半島沿岸における海岸段丘の研究から、過去の巨大地震に伴う地殻の隆起や沈降の歴史を紐解いています。また、津波堆積物の調査では、ハンドコアラーやジオスライサーといった手法を用いて、堆積物の層序や構成物質を分析し、年代測定を行うことで、数百年から数千年スケールでの古津波の発生履歴を復元しています。これは、将来発生しうる巨大地震や津波の規模や発生確率を予測する上で非常に重要な情報となります。

主要な研究成果としては、房総半島の完新世における地殻変動や、関東地域における巨大地震・津波の履歴に関する研究などが挙げられます。また、共著論文では、鴨川地溝帯の活断層活動や、房総半島南西部の海岸地形から見た大正型関東地震の再来間隔、あるいは東北地方太平洋沖地震に伴う津波堆積物など、多岐にわたるテーマに取り組んでいます。

社会活動・貢献

宍倉氏は研究活動に加え、地震学や防災に関する様々な委員会や学会活動にも積極的に関与しています。歴史地震研究会では財政委員長や行事委員を、日本地震学会では大会企画委員、通常代議員、編集委員会委員などを歴任しました。また、日本活断層学会の理事も務めています。

国の防災政策にも深く関わっており、内閣府の中央防災会議関東大震災分科会委員や、元禄地震の災害教訓の継承に関する検討会委員を務めました。東日本大震災後には、千葉県の調査検討専門委員会委員や津波調査業務受託者選定委員会委員として、震災被害の実態把握や対策検討に貢献しました。その他にも、地震調査研究推進本部の測地学分科会委員、神奈川県温泉地学研究所津波調査検討委員会委員、地震予知連絡会委員、千葉県地震被害想定調査検討会議委員など、重要な役職を歴任し、専門知識を活かした社会貢献を行っています。

また、国立歴史民俗博物館の共同研究員としても活動しており、歴史資料と地質調査を組み合わせた学際的な研究の推進にも貢献しています。

著書

専門家向けの論文だけでなく、一般向けにも研究成果や地震に関する知識を分かりやすく解説した著書を出版しています。

『次の巨大地震はどこか!』（ミヤオビパブリッシング、2011年）
『巨大地震をほり起こす 大地の警告を読みとくぼくたちの研究』（少年写真新聞社、ちしきのもり、2012年）

これらの著書を通じて、古地震学・歴史地震学の重要性や、巨大地震に対する備えについて広く啓発活動を行っています。

私生活では、2013年に防災学者である大木聖子氏と結婚しています。

宍倉氏の研究は、過去の巨大地震の真実に迫ることで、将来の地震災害軽減に向けた科学的基盤を提供しており、防災分野において極めて重要な貢献をしています。

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