宗左近

宗左近：詩人、評論家、そして翻訳家の多彩な生涯

宗左近（1919年-2006年）は、詩人、評論家、仏文学者、そして翻訳家として知られる、20世紀を代表する文化人の一人です。本名は古賀照一。法政大学名誉教授を務め、文芸誌『同時代』の同人として活躍しました。

激動の時代と詩への道

福岡県北九州市に生まれた宗左近は、旧制一高を経て東京帝国大学哲学科に入学。しかし、第二次世界大戦の勃発により召集令状を受け取ります。彼は精神錯乱を装って除隊を試みるなど、戦争への抵抗を示しました。

1945年5月25日、東京大空襲は彼の運命を大きく変えます。母親とともに避難していた墓地で、炎に囲まれた彼は、母親を置いて逃げるという、生涯忘れられない苦しい経験をしました。この体験は、後の彼の作品に深く刻まれることになります。

戦後、宗左近は都立高等師範学校（現・首都大学東京）でフランス語を教える傍ら、詩作を続けました。彼は詩集『炎える母』（1967年）で第6回歴程賞を受賞。この作品は、東京大空襲での経験と、母親を失った悲しみ、罪悪感などを赤裸々に綴ったものであり、大きな反響を呼びました。

多彩な才能と幅広い活動

宗左近の才能は詩作だけにとどまりません。彼は美術評論家、翻訳家としても活躍しました。ロラン・バルトの『表徴の帝国』の翻訳をはじめ、エミール・ゾラやジョルジュ・シムノンの作品を翻訳。また、作詞家としても著名で、多くの学校校歌などを手がけました。その中には、独特の擬声語がインターネット上で話題になった福島県立清陵情報高等学校校歌「宇宙の奥の宇宙まで」も含まれています。

晩年には、俳句にも傾倒し、「中句」と名付けた独自の1行詩を創作。縄文時代にも強い関心を持ち、縄文土器などを収集するなど、その活動は多岐にわたりました。

創作の原動力と多様な作品

宗左近の創作の原動力は、東京大空襲での体験、戦争への批判、そして縄文時代への憧憬など、多岐に渡ります。彼の作品は、詩集だけで46冊以上にのぼり、晩年は年に1冊以上のペースで出版を続けていました。

彼の詩集には、『黒眼鏡』（1959年）、『河童』（1964年）、『愛』（1969年）、『縄文』シリーズなどがあり、それぞれの作品に彼の思想や感性が反映されています。また、評論集『芸術の条件』（1959年）、『反時代的芸術論』（1963年）、自伝『縄文まで』（1982年）、そして『宮沢賢治の謎』（1995年）など、評論やエッセイ、自伝なども多数残しています。これらは、彼の多様な興味と深い知性を示すものです。

後世への影響と顕彰

宗左近の死後も、彼の作品は多くの人々に愛され続けています。彼の蔵書や原稿は市川市と北九州市に寄贈され、市川市文学ミュージアムや北九州市戸畑図書館に「宗左近記念室」が設置されました。また、彼の業績を顕彰する「宗左近・蕊の会」も設立され、活動を続けています。

宗左近は、詩人、評論家、仏文学者、翻訳家という枠を超え、戦争、芸術、歴史、そして人間というテーマを多角的に捉え、表現した稀有な存在でした。彼の作品は、現代社会に生きる私たちにとって、今もなお多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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