宗教団体法

宗教団体法とは

宗教団体法（しゅうきょうだんたいほう）は、1939年（昭和14年）に制定された日本の法律です。正式名称は「宗教団体法」（昭和14年4月8日法律第77号）。この法律は、宗教団体に関する包括的な規定を設け、その組織、活動、財産管理などを規制することを目的としていました。1940年（昭和15年）4月1日に施行されましたが、1945年（昭和20年）12月28日に廃止され、新たに宗教法人令が制定されました。

制定の背景

明治維新と宗教政策

明治政府は、神道を国家宗教とする祭政一致体制を目指し、仏教の権威を抑制しました。仏教寺院が江戸幕府の政治機構の一部を担っていたため、その権威を解体し、神道を中心とした新たな体制を確立しようとしたのです。寺院の寺領を没収し、神仏分離を推し進める一方で、神社を国家管理下に置きました。また、宗門人別帳を廃止し、戸籍制度を導入するなど、宗教と行政の分離を進めました。しかし、政府は、宗教を完全に統制しようとしたわけではなく、むしろ、宗教活動を国家の目的に沿うように誘導しようとしていました。特に、キリスト教に対しては、条約改正交渉への影響から、積極的な統制を避けつつも、監視の目を光らせていました。

宗教法案の提出と挫折

明治時代には、宗教法人に関する法律を制定する動きが何度かありました。1899年（明治32年）には、政府が初めて宗教法案を提出しましたが、仏教界からの強い反対により、廃案となりました。仏教界は、キリスト教と同列に扱われることや、国家による干渉を強く懸念しました。その後も、1927年（昭和2年）と1929年（昭和4年）に同様の法案が提出されましたが、いずれも廃案となりました。これらの法案は、宗教団体を法人化し、国家による監督を強化しようとするものでしたが、宗教界からの反発や、政治的な事情により、実現には至りませんでした。

大本教事件と宗教統制の強化

1920年代には、大本教などの新興宗教が急速に勢力を拡大しました。これらの宗教は、現世批判的な側面を持ち、政府にとって脅威とみなされました。政府は、大本教を弾圧する一方で、既成の宗教団体を保護し、統制しようとしました。この背景には、社会主義思想の広がりや、反体制運動の高まりに対する警戒感がありました。政府は、宗教を国家の統制下に置き、国民思想を統一する必要性を感じていました。

宗教団体法の成立

このような状況の中、1939年（昭和14年）に宗教団体法が成立しました。本法は、政府が宗教団体を監督し、国家の目的に沿って宗教活動を誘導することを目的としていました。特に、新興宗教団体や類似宗教団体に対しては、監督取締規定を設け、その活動を制限しました。

法律の内容

宗教団体法は、「宗教団体」と「宗教結社」を区別し、それぞれに異なる規定を設けました。「宗教団体」とは、従来の宗教宗派や教団を指し、法人格を取得することができました。一方、「宗教結社」とは、新興宗教団体や類似宗教団体を指し、届出制のもとで活動が制限されました。

宗教団体の監督

本法は、宗教団体の設立、解散、合併、財産管理、教師の資格など、あらゆる面で国家による監督を規定していました。文部大臣は、宗教団体の成規や秩序を維持するために必要な処分を行うことができ、地方長官は、宗教団体の活動を監督することができました。また、宗教団体は、税制上の優遇措置を受ける代わりに、国家の監督に従わなければなりませんでした。

宗教結社の規制

宗教結社に対しては、設立の届出義務を課し、活動内容を監視しました。また、治安警察法などに基づき、宗教結社の活動を制限・禁止することができました。政府は、新興宗教団体を「淫祠邪教」とみなし、国家の秩序を乱すものとして警戒しました。本法は、これらの宗教団体を排除し、国家神道を中心とする体制を強化しようとするものでした。

法律の効果

宗教団体法の制定は、日本の宗教界に大きな影響を与えました。本法により、宗教団体は国家の統制下に置かれ、宗教活動の自由は著しく制限されました。また、宗教団体の合同が進み、戦時体制への協力が求められました。宗教団体法は、国家神道を頂点とする宗教体制を確立し、国民思想を統一するための重要な手段となりました。

神社神道の特権化

宗教団体法は、神社神道に関する規定を一切持たないという点が、最大の特徴でした。これは、「神社は宗教にあらず」という考え方に基づいており、神社神道は、宗教を超越した国家の祭祀として、特別の地位を与えられました。本法は、この考え方を明確にし、神社神道を中心とする国家体制を強化しました。

法律の廃止とその後

宗教団体法は、1945年（昭和20年）12月28日に廃止され、新たに宗教法人令が制定されました。これは、第二次世界大戦終結後、GHQの占領政策のもとで、国家による宗教統制を解体するための措置でした。宗教法人令は、宗教団体の法人格を認め、信教の自由を保障するものでしたが、その後の宗教法人法の制定に繋がっています。

参考文献

小野清一郎「宗教法案の法理的批評」『中央公論』第41巻、第9号、中央公論新社、1926年。
美濃部達吉「宗教団体法案と信教の自由」『現代憲政評論』岩波書店、1930年。
衆議院調査部『宗教団体法案調査資料』衆議院調査部、1939年。
根本松男『宗教団体法論』巌松堂、1941年。
奥平康弘; 斉藤小百合「宗教の自由の系譜」『時の法令』朝陽会、1996年〜1997年。

関連項目

宗教法人法
宗教法人

外部リンク

宗教団体法 - 国立国会図書館 日本法令索引

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