定命 (イスラム教)

定命について

定命（ていめい、アラビア語で「カダル」または「qadar」）は、イスラム教における重要な概念です。ムスリムにとって、信仰の中で欠かせない六つの信条の一つとして位置づけられており、すべての人間や万物の運命が神（アッラーフ）によって定められているとする教えです。この概念は、多くの信者にとって、生き方や選択に影響を与えることになります。

定命の教義

定命の教義は、運命や未来に対するイスラム教徒の理解を深めるものです。この教えによれば、神は万物の創造とその運命を完全に支配しているため、人間には自分の人生に影響を与える権限がないという考えが生まれます。言い換えれば、すべての出来事、良いことも悪いことも、神の意志に基づいて決定されています。この考えは、信者にとって精神的な安定をもたらす一方で、自己責任や自由意志との関係についての難しさも提起します。

自由意志との関係

定命の考え方は、イスラム教徒における自由意志との関係が複雑です。多くの信者は、神がすべてを定めると同時に、人間に与えられた自由意志も存在すると信じています。このため、自らの行動や決定には責任が伴うという意識が強調されることとなります。つまり、運命はあらかじめ決定されているが、それに対してどのように行動するかは自分次第であり、この行動が最終的な結果に影響を与えると考えられています。

予定説との違い

定命の概念は、時に予定説という別の教義と混同されることがあります。予定説は、神があらかじめ全てを決定しているという考え方ですが、定命は、神の意志による運命の決定と自由意志との調和についてより焦点が当てられています。すなわち、予定説が神の主権を強調する一方で、定命は信者自身の行動にも意味があることを示唆しています。この違いは、信者がどのように道徳的選択を理解するかに影響します。

宿命論との関連

さらに、定命は宿命論とも関係があります。宿命論は、すべての出来事や行動が運命づけられているという思考様式で、個々人の努力や意志に対する軽視が見られる場合があります。定命の教義が自由意志の存在を認めるのに対し、宿命論はその自由を否定することがあります。このような違いは、信者が自己責任をどう捉えるかに影響を与える重要な要素です。

まとめ

定命は、運命に対するイスラム教徒の理解とその信仰の重要な要素を示すものです。神がすべての運命を決定しているという教えは、信者にとって平和や安定感をもたらしつつも、自己の行動による選択の重要性をも示しています。この教義は、運命と自由意志とのバランスを考えさせるものであり、イスラム教徒の生き方や考え方に大きな影響を及ぼすものです。

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