定速運転

定速運転（ていそくうんてん）

鉄道の列車における定速運転とは、運転士があらかじめ設定した任意の速度を列車が自動的に維持する技術を指します。これは、車両の速度を自動的に増減させることで実現され、車両工学の分野では「定速度制御」とも呼ばれています。身近な例では、自動車に搭載されているクルーズコントロール機能に相当するものです。

概要と目的

一般的な列車の運転では、駅を発車した後、加速して一定速度に達すると慣性力を利用した惰行運転を行います。速度が低下した際には再び加速（力行）を行い、下り勾配では速度が増しすぎないようブレーキ操作で微調整を行います。特に、停車駅間の距離が長い優等列車などでは、これらの操作を運転士が繰り返し行う必要があり、運転疲労の原因となることが少なくありません。

定速運転は、こうした速度の維持に関わる一連の制御を自動化することで、運転士の負担を大幅に軽減することを目的としています。これにより、運転士は他の状況判断や安全確認に集中できるようになります。

技術的背景とメリット

かつて定速運転は、複巻整流子電動機の界磁電流を制御する複雑な方式が主流でした。しかし、現代の電車に広く採用されているVVVFインバータ制御方式が登場してからは、インバータの出力周波数を固定することで比較的容易に定速運転を実現できるようになったため、この技術は急速に普及しました。

定速運転の導入は、運転曲線が不規則に変動する「ノコギリ運転」を抑制し、常に設定された最高速度やその区間の制限速度を厳密に保って走行することを可能にします。これにより、全体的な平均速度の向上、すなわちスピードアップにつながるというメリットも生まれます。

定速運転の操作方法

定速運転は、加速や抑速（速度を一定に保つためのブレーキ操作）の一部または全部を自動で行う機能であり、その開始と終了は基本的に運転士の手動操作によって行われます。開始方法には、車両の種類やメーカーによっていくつかの異なる方式が存在します。

主な開始方式としては、以下のようなものが見られます。

- マスコンハンドルに設けられた「定速」ノッチに合わせるか、「定速」と書かれたボタンを押す方式。特急形車両で多く採用されています。
- マスコンハンドルを特定の力行ノッチに入れたまま維持することで、自動的に定速運転モードへ移行する方式。ノッチ自体に「定速」表記はありませんが、通勤形車両でしばしば見られます。
- 定速運転したい速度にマスコンハンドルを合わせる方式。これは、1960年代から1970年代にかけて製造された初期の定速運転対応車両に多かった方法です。
- マスコンハンドルを力行の最大ノッチに合わせてから、「定速」ボタンを押す方式。JRの車両に多く見られます。
- マスコンハンドルを力行の特定のノッチ（例：4または5ノッチ）に合わせてから、「定速」ボタンを押す方式。JR東海の一部車両で採用されています。
- マスコンハンドルが惰行（N）位置にある状態で「定速」ボタンを押す方式。この場合、ハンドルをN位置以外に動かすことで定速運転が解除されます（京成AE形電車（2代）など）。
- 力行中に希望する速度に達した際に「定速」ボタンを押す方式。このタイプは、速度が一定以上（例：115 km/h以上）でないと使用できない場合があります。解除はマスコンハンドルをNにするか、ブレーキ操作を行うか、またはATCによる自動減速によって行われます。台湾高速鉄道の700T型などで見られるこの方式は、任意速度でのATC頭打ち設定に近い性格を持ち、設定速度を超過すると自動で抑速ブレーキがかかり速度を調整します。特に高速鉄道では空気抵抗が大きく常に力行が必要な場面が多いため、こうした機能は運転士の負担軽減や正確な速度維持に有効とされますが、このボタン自体には力行性能はありません。

定速運転を終了するには、一般的にはマスコンハンドルを定速ノッチ以外の位置（例えば惰行位置）へ戻すなどの操作を行います。ただし、一部の車両では定速運転を維持したまま、速度調整用のノッチやボタンを使って設定速度を変更できる機能を持っています。

なお、多くの車両では、ある程度の速度（概ね60 km/h以上など）に達していないと定速運転機能が作動しないようになっています。一方で、車両基地の洗浄機を通過する際など、低速度（概ね10～25 km/h以下）での定速運転を可能にする「低定速運転」または「逆定速」と呼ばれる特殊な機能を備えた車両も存在します（東京都交通局5300形など）。この場合の操作は通常の定速運転とは異なることがあります。

定速運転

定速運転（ていそくうんてん）

概要と目的

技術的背景とメリット

定速運転の操作方法

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