抑速ブレーキ

抑速ブレーキとは

抑速ブレーキは、列車や車両の速度を一定以下に抑えることを目的としたブレーキシステムです。これは、車両を完全に停止させる「停止ブレーキ」とは異なり、特に下り坂などで速度を制御するために用いられます。文献によっては「勾配抑速ブレーキ」とも呼ばれます。

概要

下り坂において、摩擦を利用する「摩擦ブレーキ」を連続使用すると、車輪やディスクに熱が蓄積し、ブレーキ性能が低下するフェード現象や、ブレーキが全く効かなくなるベーパーロック現象が発生するリスクがあります。また、制動力の強さによってブレーキの締め・緩めが頻繁に繰り返されることで、乗り心地の悪化や所要時間の増加といった問題も生じます。これらの問題を解決するために、「非摩擦ブレーキシステム」である抑速ブレーキが導入されています。

抑速ブレーキは、「ブレーキ」という名称がついていますが、操作はブレーキハンドルではなく、マスコンハンドル（マスターコントローラーハンドル）で行われるのが一般的です。例えば、大阪市交通局30系の場合、マスコンハンドルを切位置から加速とは反対方向に1・2ノッチ入れることで動作します。

主な抑速ブレーキの種類

抑速ブレーキには、様々な種類が存在します。

電気車の場合

電車や電気機関車などの電気車では、主に以下の2種類のブレーキが用いられます。

発電ブレーキ：モーターを発電機として利用し、発生した電力を車載の抵抗器で熱エネルギーに変換することでブレーキ力を得ます。
回生ブレーキ：発電ブレーキと同様にモーターを発電機として利用しますが、発生した電力を架線に戻して他の車両が使用したり、自車の蓄電池に蓄えたりすることでブレーキ力を得ます。回生ブレーキはエネルギー効率に優れているのが特徴です。

気動車・ディーゼル車の場合

気動車やディーゼルエンジンを動力源とする大型トラック・バスなどでは、以下のブレーキが用いられます。

排気ブレーキ：排気管を塞ぎ、その際に発生する圧力で回転を抑制することでブレーキ力を得ます。
コンバータブレーキ・流体式リターダー：流体の抵抗を利用してブレーキ力を得るシステムです。

抑速ブレーキとワンハンドルマスコン

1990年代まで、多くの抑速ブレーキはワンハンドルマスコン（一つのハンドルで加速とブレーキを操作する方式）では使用できませんでした。近畿日本鉄道や南海電気鉄道では、一部の車両に抑速ブレーキが搭載されているため、部品を共通化するためにワンハンドルマスコンの採用を避けるケースが多く見られました。しかし、技術の進歩により、ワンハンドルマスコンでも抑速ブレーキが利用できるようになってきており、大阪市交通局30系の後継車両であるOsaka Metro 400系や、JRのE233系電車、313系電車など、ワンハンドルで抑速ブレーキを採用した車両も増えています。

まとめ

抑速ブレーキは、下り坂などでの安全な走行を支える重要なシステムです。摩擦ブレーキの限界を補い、安定した速度制御を実現するために、様々な方式の抑速ブレーキが開発・導入されています。近年では、ワンハンドルマスコンとの両立も進み、より操作性の高い車両が登場しています。

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