宝塚市役所放火事件

宝塚市役所放火事件は、2013年（平成25年）7月12日に兵庫県宝塚市の市役所本庁舎で発生した事件です。これは、行政に対する不当な要求行為に起因する行政対象暴力事件であり、放火および殺人未遂の罪に問われました。

事件発生と経過

事件は2013年 7月12日午前9時20分頃に始まりました。一人の男性が1階の市税収納課を訪れ、納税に関する相談を始めました。対応した職員1名が、男性が次第に声を荒げ始めたため、別の職員1名を呼び加わりました。男性は午前9時35分頃に突如激高し、「私の人生はめちゃくちゃだ。これが私の答えだ」などと叫びながら、カバンから取り出した火炎瓶をカウンター越しに職員席に投げつけました。これはワインボトルにガソリンを入れたもので、1本目は着火せず職員に当たり、2本目は火を付けて投げられました。同時に、男性はポリタンクのガソリンをカウンター内に撒きました。

火炎瓶などによって引火した炎は瞬く間に燃え広がり、天井に達しました。職員による初期消火は十分な効果がなく、火勢が猛烈であったため消火活動を中止し、避難が開始されました。黒煙が充満し視界が悪化、特に火元の部署では主要な避難経路が断たれ、ベランダからの避難を余儀なくされる状況も発生しました。初期消火にあたっていた職員1名が気道熱傷を負い避難先のベランダで倒れましたが、他の職員に救出されました。午前9時50分頃までに、庁舎内にいた市民52名と職員642名を含む全員の避難が完了しました。

男性は逃走しようとしましたが、追いかけた職員たちによって庁舎1階（グラウンドフロア、G階）で取り囲まれました。男性は抵抗し、職員に暴行を加えたため、複数名の職員によって取り押さえられ、駆けつけた警察官に引き渡されました。

火災は早期に鎮火しましたが、この事件により職員4名と来庁していた市民2名の計6名が負傷しました。負傷の程度は中等症から軽症でした。火炎瓶が頭部に当たった職員は打撲や皮下血腫、消火にあたった職員は気道熱傷を負いました。

犯人について

逮捕されたのは、当時宝塚市に住む60代の男性でした。男性は1995年に市内のマンションを購入しましたが、固定資産税を滞納し、2003年8月に市に差し押さえられていました。この差し押さえ後、男性は税金相談のため市役所を複数回訪れており、滞納分の分割払いを求められると声を荒げる傾向がありました。

特に、事件の約8ヶ月前の2012年11月5日には、市税収納課の職員に対し、「俺よりもっとひどい目に合わせてやる」「お前らの家族も覚えとけよ」などと脅迫し、職員の顔を携帯電話で撮影するという行為に及んでいました。電話での税金相談でも同様の態度をとることがあったとされています。

男性はマンション管理費の滞納はなかったものの、他の住民との交流は少なく、過去にプレハブ小屋を無断設置してトラブルになるなど、協調性に欠ける面があったといわれます。事件当時は2012年末から無職で、貯金を切り崩して生活しており、所持金が乏しい状態でした。

裁判

男性は、建造物侵入、現住建造物等放火、殺人未遂、そして過去の脅迫行為に対する公務執行妨害などの罪に問われました。2014年2月7日、神戸地方裁判所で行われた第一審で懲役18年の判決が下され、その後、控訴審、上告審でもこの判決が維持され確定しました。

被害と宝塚市の対応

この事件により、市役所本庁舎の1階フロア約1442平方メートルが焼損し、市税収納課を含む9課1委員会および指定金融機関窓口が被災しました。カウンターやロッカー、パソコンなどの什器類も大きな被害を受けました。また、消火活動による放水で、階下のG階にある保育課や子育て支援課などが水損被害を受けました。特に子育て支援課は被害が大きく、業務継続が困難になりました。

宝塚市は事件後、「市庁舎火災事案検証委員会」を設置し、事件の検証を行いました。その中間報告に基づいて復旧工事が進められ、事件発生から約5ヶ月後の12月24日には、被災した部署での業務が再開されました。

事件の検証結果を受け、宝塚市は庁舎の安全対策を強化しました。火災対策として、以下のような取り組みが行われました。

書類保管方法の見直し（ファイリングロッカーへの収納徹底など）
ペーパーレス化の推進
消防訓練の強化（消火器・消火栓操作の習熟度向上）
避難誘導体制の見直し
防災センターの警備員と市職員の連携強化
防災センターから消防本部への自動通報装置の整備

また、放火事件であったことから、防犯対策も強化されました。

防犯カメラの増設
不審者対応ツールの配備（さすまたなど）
* 防犯交通安全課における警察経験のある職員の増員

この事件は、行政機関が直面しうる行政対象暴力の危険性を示す事例として、広く認識されています。

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