宣撫官

宣撫官とは

宣撫官（せんぶかん）とは、戦時中、占領地において占領軍の目的や方針を住民に伝え、人心を安定させることを任務とする軍属です。彼らは、占領地域に配置された宣撫班を基本単位として活動しました。

概要

宣撫工作は、宣撫官が行う活動全般を指します。第二次世界大戦以前から、日本は満州や中国において宣撫班を組織し、活動を行っていました。その目的は、日本の政策を正当化し、中国側の抗日宣伝を打ち消し、住民の敵対心を減らすことで治安を維持することでした。また、現地住民との信頼関係を築くことで、労働力や情報提供などの協力を得ることも目指しました。宣撫官の活動は、食事の提供から教育まで多岐にわたり、彼らは「武器なき戦士」とも称えられました。宣撫工作は、宣撫班が結成される以前から、各部隊でも実情に応じて行われていました。

宣撫班による宣撫工作は、移動する部隊に同行する「従軍宣撫」と、地域に拠点を設けて行う「定着宣撫」の2種類に分けられます。従軍宣撫は部隊と共に移動しながら、住民への広報活動や協力要請を行いました。一方、定着宣撫は、特定の地域に拠点を置き、住民の生活支援や地域社会の安定化に尽力しました。

宣撫官には、語学に堪能な者や広報経験者が任命され、他の職務と兼務することも多くありました。例えば、漫画家のやなせたかしは、暗号担当として配属された後、その広報経験を買われ、宣撫官として紙芝居を作成・上演する任務を与えられました。

起源

宣撫班の起源は、満州事変に伴う1932年の熱河作戦に遡ります。この作戦において、南満州鉄道総局の八木沼丈夫を班長とする宣撫班が組織され、その活動が予想以上の成果を上げたため、関東軍が本格的に宣撫班を編成することとなりました。宣撫官という名称は、八木沼が中国に存在した宣撫使という役職から命名したものです。

任務の範囲

宣撫官の任務は、戦火や敗残兵の略奪に怯える住民に対して働きかけ、人心の安定、治安の回復、共産・抗日思想の一掃、産業・経済・文化の復興、そして中国に健全な政権を確立するための協力など多岐にわたりました。

従軍宣撫班

従軍宣撫班は、日本軍部隊と行動を共にし、抗日宣伝工作に対抗する広報活動や、日中親善を訴えるチラシなどを配布しました。また、部隊が休む際には、村落に出向いて日本軍の正当性や共産党・国民党の悪業を説きました。住民の理解が得られると、軍用道路の建設や物資調達などの協力を得ることができました。また、信頼関係が築かれると、日本軍に有利な情報を提供する者も現れ、諜報活動にも貢献しました。中国国民党軍が実施した焦土作戦により、日本軍が戦闘を行う際には、従軍宣撫班が食事を準備し、住民に配給することもありました。

定着宣撫班

定着宣撫班は、住民が安心して生活できるよう、日本軍の守備隊から離れた場所に弁公処という拠点を設けました。主な活動は、避難民への帰還勧告、衣食住の支援、就業支援などです。また、住民の生命と財産を守るため、避難民の留守宅の保護や、難民救済のための医療・食料配給なども行いました。医療体制が整っていない地域では、施療班を設置し、医療活動も行いました。

地方の政治と治安対策

戦火の恐怖や生活の不安が薄れると、地域社会の問題が表面化しました。宣撫班は問事処を設け、住民の相談に対応しました。また、住民自身による役所組織の指導や、治安維持会の結成を支援しました。匪賊に対しては、帰順を促すか、自衛団を組織して討伐しました。

鉄路愛護村

住民の信頼を得るにつれて、宣撫班は鉄路愛護村の建設に着手しました。これは、鉄道や道路を大切にする思想を普及させ、その地域を守ることを目的とした活動です。愛護村では、情報連絡網の設置や、鉄道巡回などが行われました。

経済産業復興工作

経済復興のため、新紙幣の流通促進、店舗開設や市場開設の促進、金融や物資取引の斡旋、商務会の組織指導などを行いました。また、農作物の集団収穫を支援し、収穫された作物を安全に流通させるための措置も講じました。

教育文化促進工作

抗日的な教科書を廃棄し、新しい教科書を配布するとともに、日本と中国の友好関係の必要性を説きました。日本語教育も推進され、日本語学校が各地に設立されました。また、文化活動として演芸会や運動会などを開催し、住民の娯楽や交流の機会を設けました。さらに、婦女宣撫員は、家庭の女性を対象に、手芸を教えることで家庭収入の向上を支援しました。デマの流布を防ぎ、正確な情報を伝えるため、新聞発行や演説会も開催されました。

救国少年隊

宣撫班は、各地で救国少年隊を組織しました。これは、10歳から16歳までの少年たちを対象とした組織で、彼らに日本との協力を促し、国民党・共産党を撲滅するという意識を植え付けました。隊員は、精神教育や日本語教育を受け、チラシ貼りや情報収集などの活動を行いました。

婦女宣撫隊

婦女宣撫隊は、地域の主婦や娘たちによって組織され、家庭への働きかけを行いました。隊長には、県長や高級官吏の夫人が任命されました。隊員は、住民との良き接点となり、戦後の雰囲気を改善するのに大きな役割を果たしました。また、日本、満州、中国の提携を呼びかけ、女性の知識や教養の向上、生活改善のための広報活動を行いました。

まとめ

宣撫官は、占領政策を円滑に進めるために、住民との信頼関係を築き、地域社会の安定化に尽力した重要な存在でした。彼らの活動は、占領地の状況や住民のニーズに応じて柔軟に対応し、広範な分野に及びました。彼らは、占領地における「武器なき戦士」として、その役割を全うしたと言えるでしょう。

参考文献

財団法人社会教育協会編 『平和の戦士宣撫班』 財団法人社会教育協会、1939年。
青江舜二郎 『大日本軍宣撫官』 芙蓉書房、1970年。
村上政則 『黄土の残照』 鉱脈社、1983年。

関連項目

占領行政
心理戦
慰問
コミュニケーション
プロパガンダ
八木沼丈夫
やなせたかし

外部リンク

* 防衛研究所のURL'>満洲国統治機構における宣伝・宣撫工作 - 防衛研究所

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