八木沼丈夫

八木沼丈夫：宣撫官と歌人の二つの顔

八木沼丈夫（1895年 - 1944年）は、日本の陸軍軍属であり、歌人としても活動した人物です。特に日中戦争（支那事変）において、日本軍が本格的に宣撫官を導入する契機となったことで知られています。

生涯

1895年、福島県に生まれた八木沼は、旧制磐城中学に進学しますが、親族の死去により学費が途絶え中退を余儀なくされます。その後、1913年に志願兵として入隊。除隊後の1917年には中国大陸に渡り、1919年に現地で結婚しました。1929年には南満州鉄道に入社し、その後関東軍に配属されます。

1933年、満州事変における熱河省攻略作戦において、日本軍が初めて宣撫官を投入する際、八木沼は宣撫班の班長に任命されました。その後も、宣撫工作の最高指揮者として主導的な役割を担い、宣撫官という名称自体も、かつて中国に存在した宣撫使から着想を得て八木沼が発案したものです。

八木沼は、宣撫官の役割について「我々は支那人自身を善導する前に、支那人に粗暴に振舞う日本の軍人をまず教育せねばならない」と述べ、また「宣撫官の拳銃はあくまでも自決のためのものであり、決して現地の民を撃ってはならない」と訓示しました。彼は、現地の民との友好関係の構築に尽力することを重視し、その姿勢は当時の軍部内では異質なものでした。

八木沼は生涯中国に滞在し、満州国の発展に貢献しましたが、太平洋戦争中の1944年に北京で亡くなりました。

宣撫活動と小澤開作との対立

八木沼は、食糧や医薬品などの物質的な支援によって中国人を貧困から救い出そうと考えていました。しかし、小澤開作は、訓練によって現地の民に自助の精神を教え込むことが先決だと主張し、両者の間には対立がありました。

歌人としての活動

八木沼は歌人としても活動し、アララギ系の短歌結社である満州短歌を主宰しました。斎藤茂吉に傾倒し、生前唯一の歌集として『長城を踰ゆ』を刊行しています。彼の死後、香川美人や高橋加寿男らが中心となり、遺稿を編纂した『遺稿 八木沼丈夫歌集』が発行されました。

軍歌「討匪行」

八木沼は、抗日ゲリラ掃討に従事する討伐隊を歌った軍歌「討匪行」の作詞も手掛けました。この歌は、藤原義江によって作曲・歌唱され、1932年にビクターレコードから発売されました。

八木沼丈夫の遺産

八木沼丈夫は、宣撫官として、また歌人として、その生涯を通じて独自の足跡を残しました。彼の活動は、日中戦争という時代背景の中で、日本軍のあり方や現地住民との関係について、深い考察を促すものです。また、歌人としての才能は、彼の内面世界や時代への眼差しを今に伝えています。

関連情報

宣撫官
藤原義江
討匪行（ウェイバックマシン）
戦時中の歌曲

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