匪賊

匪賊とは

匪賊（ひぞく）とは、集団を形成し、暴力的な手段を用いて略奪や暴行を繰り返す盗賊を指す言葉です。「匪」の字には「人でなし」や「悪党」といった意味合いが含まれています。特に近代中国において、公権力の及ばない地域で活動した非正規の武装集団を指すことが多いです。

概説

匪賊は、農村部や行政の境界、山岳地帯など、公権力が十分に機能しない地域を主な活動拠点としました。その構成員は、経済的に困窮した農民、没落した地主や知識人、戦時の敗残兵など、社会的に不安定な立場に置かれた人々でした。21世紀の現代においても、北朝鮮では略奪行為を働く軍人を「土匪」と呼ぶことがあります。

近代中国の匪賊

歴史的背景

19世紀以降、中国では清朝から中華民国へと政権が交代しましたが、中央政府の統治力は地方にまで十分に浸透しませんでした。その結果、地方では自衛組織、侠客集団、盗賊集団など、様々な武装集団が生まれました。その中でも、反体制的・反社会的な活動を行う集団が「匪賊」（または「土匪」）と呼ばれました。

会匪・股匪

数十人から数百人、時には千人単位で農村を襲撃する盗賊集団は、中国では「会匪」や「股匪」と一般的に呼ばれました。中には、山塞に拠って抵抗する者もいました。中華民国初期に河南省や陝西省を荒らしまわった「白狼匪」は、最大規模で最も凶悪な匪賊の一つとして知られています。また、大規模な武装集団の中には、後に政府軍に公認・再編され、軍閥となった例もあります。王天縦、張作霖、馮麟閣らは、元は匪賊であったとされています。

匪賊に類するもの

共匪：共産党のような匪賊、または共産党軍そのものを指す言葉です。一部の土匪は共産党軍の指揮下に入り、スローガンを叫んで活動しました。韓国では、共匪やそれに近い集団の殲滅に力が入れられ、その過程で居昌良民虐殺事件や聞慶虐殺事件などの悲劇も発生しました。

馬賊：満州特有の武装集団で、騎馬で活動することから日本ではそう呼ばれました。彼らは「真の馬賊は義賊である」と主張し、仁義を重んじました。馬賊は7人以上で集団を形成し、規律も厳格でしたが、時代が下るにつれてその道も堕落し、普通の匪賊と変わらなくなりました。

兵匪：軍閥の兵士や敗残兵が賊徒化したものです。給料未払いや統率者への不満から暴動を起こし、放火・掠奪・殺人を繰り返しました。満州事変後、満州地域では兵匪が増加し、当局にとって大きな脅威となりました。

土匪の活動

活動の背景

土匪は、無頼の民や職を失った農民が身を投じた集団です。彼らは、仕事があれば農作業に従事し、なければ盗賊となるという生活を送っていました。土匪は、政治的な反発心や、軍隊や官憲からの圧迫、生来の稼業意識など、様々な動機で形成されました。彼らは、水滸伝のように「富める者から奪い、貧しい者に分け与える」というスローガンを掲げ、義賊を自称することもありました。

活動地域

土匪の活動が特に激しかったのは、山東省、河南省、江蘇省、安徽省北部であり、特に四省の境界地帯が最も甚だしかったです。山東省は梁山泊で知られるように、昔から匪賊の多い地域でした。河南省もまた、大規模な土匪軍団が現れる地であり、中華民国時代には王天縦や白狼などの有名な匪賊が出現しました。安徽省北部は、常に人の流入が激しく、匪賊の被害も甚大でした。江蘇省の徐州府付近は、他省からの匪賊も入り込み、匪賊の巣窟とされていました。

組織と活動

大規模な土匪は、将校出身者などを中心に、軍隊のような組織的な編成を行っていました。中隊や小隊といった単位で組織され、参謀や書記といった幕僚を置き、軍服を着用し、最新の銃器を装備することもあったため、正規軍と区別がつかないほどでした。山東省周辺の土匪は、株式会社のような組織を形成しており、鉄砲と人が株となり、獲物を分配していました。

義賊としての側面

土匪の間には、中国社会の他の社会では見られない、義を重んじる風潮がありました。特に馬賊はその傾向が強く、約束を遵守し、義侠のためには命をも惜しまないという、日本の侠客に通じる部分がありました。この信義によって結ばれた仲間意識は、腐敗した社会の中にあって、純粋なものと見なされることもありました。

襲撃、誘拐、課税

土匪の活動には、村落への襲撃、誘拐、税の徴収などがありました。

襲撃：主なターゲットは裕福な村落でしたが、巨大な匪賊や連合部隊は、軍隊や自衛組織が配備された県城や町を襲撃することもありました。列車を襲撃することもあり、臨城事件はその最大の事例でした。

誘拐：最も安全で利益が大きかったのは、身代金目的の誘拐でした。人質は「肉票」と呼ばれ、土匪は事前に綿密な調査を行い、家族構成や、最も愛されている子供などを調べ上げ、身代金を要求しました。交渉が長引くと、人質は虐待されることもありました。

課税：土匪の中には税を徴収するものもいました。住民は、政府軍に頼るよりも、土匪に金を納めることで略奪を免れることを選択する場合もありました。

ヨーロッパの匪賊

ヨーロッパでは、社会的匪賊として英雄視されてきた「クレフテス」という集団がいました。彼らは、オスマン帝国の支配に抵抗し、ギリシャ人の精神を守ったとされています。クレフテスは、山岳地帯を拠点に活動するゲリラ集団で、独自の徴税権を行使していました。

匪賊に関する研究

中山優の研究

東亜同文書院出身で満州の建国大学教授となった中山優は、「匪賊」を土賊、寇賊、兵匪、共匪などに分類しました。満州の馬賊もその一種であるとしました。大日本帝国は、中国大陸に進出する中で、これらの武装集団との接触を避けられず、彼らを鎮圧・討伐の対象としました。このような状況が、匪賊の研究を促しました。

エリック・ホブズボームの研究

イギリスの社会史家エリック・ホブズボームは、匪賊研究を社会学的に展開し、世界中の匪賊現象に光を当てました。彼は、抑圧的で不平等な社会において、農民などの一般市民から犯罪者としてではなく、彼らの精神を体現する者として見られる匪賊を「社会派匪賊」と名付けました。ホブズボームは、社会派匪賊は個々の特殊な状況から生まれるものであり、政治的な革命分子にはなりえないとしました。しかし、アントン・ブロクは、匪賊は本質的に野心的で保守的であり、既存の政治勢力と結びついて農民を抑圧する側に回ると論じました。

まとめ

匪賊は、中国の歴史の中で、社会の不安定な時期に現れた武装集団です。彼らは、略奪や誘拐などの犯罪行為を行う一方で、義賊としての一面を持つこともありました。匪賊の研究は、社会構造や不平等の問題を考える上で、重要な視点を提供しています。

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