宣言的記憶

宣言的記憶（陳述記憶）

宣言的記憶（Explicit memory / Declarative memory）とは、私たちが意識的にアクセスし、言葉で表現できる種類の記憶です。これは、具体的な事実や個人的な経験といった情報を保持するシステムであり、その内容を「宣言（言明）できる」ことから「陳述記憶」とも呼ばれます。無意識的に身体が覚える手続き記憶とは異なる性質を持ちます。

概要と特徴

この記憶システムによって保持されるのは、教科書で学んだ一般的な知識（例：歴史的事実、科学原理）や、過去の出来事に関する個人的な体験（例：昨日の夕食の内容、旅行の思い出）などです。これらの情報は、意識的な努力によって心の中で想起したり、他者に説明したりすることが可能です。過去の出来事を「心の眼」で再体験する感覚を伴うこともあります。

宣言的記憶は、手続き記憶に比べて忘れやすい側面がありますが、その記憶に頻繁にアクセスしたり、繰り返し思い出したりすることで、より強く、長持ちするようになります。記憶を効果的に定着させるには、記憶術を用いたり、単に情報をインプットするだけでなく、内容を積極的に思い出す練習（アクティブ・リコール）を行ったりすることが推奨されています。

分類

宣言的記憶は、保持する情報の種類に基づいて、主に二つのカテゴリーに分類されます。

1. エピソード記憶 (Episodic Memory)
特定の時間や場所に関連付けられた、個人的な出来事や体験に関する記憶です。具体的な文脈を持つ自伝的な記憶であり、過去の出来事を追体験する感覚を伴います。（例：卒業式の日の出来事）
2. 意味記憶 (Semantic Memory)
個人的な時間や場所の文脈から切り離された、一般的な事実、概念、知識に関する記憶です。（例：世界の首都、科学の法則）

これら二つの分類については、独立したシステムか、あるいは単一のシステム内の異なる側面かという議論も存在しますが、多くの場合、それぞれの特性に基づいて区別して扱われます。

神経基盤

宣言的記憶の機能には、脳の特定部位が重要な役割を果たします。中心となるのは、脳の中部側頭葉（Medial Temporal Lobe）です。この領域には、海馬（Hippocampus）やその周囲の大脳皮質の一部が含まれます。海馬は、新しい情報が宣言的記憶として脳に記録される初期段階に特に重要であり、大脳皮質は長期的な記憶の貯蔵に関与すると考えられています。

脳損傷が記憶に与える影響を調べる神経心理学の研究は、これらの脳領域の役割を明らかにしてきました。記憶障害で有名なH.M.氏（ヘンリー・モレイソン氏）は、両側の海馬を含む中部側頭葉を切除した結果、過去の記憶は保持できたものの、手術以降の新しい宣言的記憶をほとんど獲得できなくなりました。この事例は、中部側頭葉が新しい宣言的記憶の形成に不可欠であることを強く示唆しています。

関連概念

宣言的記憶に関連する概念として、「宣言的知識」があります。これは宣言的記憶によって保持される内容そのものを指します。また、対照的な記憶システムとして「手続き記憶」があり、これは技能や習慣を無意識的に実行するための記憶です。これらの異なるタイプの記憶が連携することで、私たちの複雑な学習や行動が可能になります。

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