室町京之介

室町京之介（1906年6月18日 - 1989年9月3日）は、昭和時代に大衆演芸作家、浪曲作家、香具師として活躍した人物です。本名は石渡薫。その多岐にわたる活動は、日本の大衆文化史において重要な位置を占めています。

概要

室町京之介は、昭和初期から後期にかけて、数多くの浪曲作品を世に送り出しました。特に、二葉百合子が歌い大ヒットした『岸壁の母』（1972年）は、彼の代表作として広く知られています。この作品は、数百万枚のレコードセールスを記録し、多くの人々の心に感動を与えました。

また、室町京之介は、自作の浪曲以外にも、浪曲や歌謡浪曲のレコード企画・構成にも携わっており、音楽プロデューサーとしての側面も持ち合わせていました。彼のプロデュース作品は、当時の大衆音楽シーンに大きな影響を与えました。

さらに、昭和初期には浅草の香具師の親分、山田春雄（大日本神農会会頭）と親交があり、香具師の口上作家としても活動していました。自らも香具師として活動した時期があり、その経験から、香具師の口上を記録した『香具師口上集』（1982年）を著しました。この書籍は、当時の香具師の文化を伝える貴重な資料となっています。また、坂野比呂志の『大道芸』(1977年)など、香具師の口上を収録したレコードのプロデュースも手がけています。

人物・来歴

室町京之介は、東京市神田区富山町（現在の東京都千代田区神田富山町）に生まれ、深川（現在の東京都江東区）の櫓下で育ちました。幼少期からその才能を発揮し、5歳で小学校6年間の課程を修了するほどの神童でした。しかし、旧制中学3年の時に転校を命じられたことに不満を抱き、退学してしまいます。翌年には文部省の中卒検定試験に合格し、東京商科大学（現在の一橋大学）に進学しますが、3年の初めに放校処分を受けます。

その後、3年間放浪生活を送った後、京都に移り住み、シナリオの執筆に挑戦しますが、成功には至りませんでした。この頃から香具師の道に興味を抱き、全国を巡る中で40回以上も留置場での生活を経験しました。その後、東京に戻り、映画雑誌の編集者として活躍し、林長二郎（後の長谷川一夫）を初めて映画雑誌の表紙に起用しました。また、ポリドールから「日本橋きみ栄端唄俗曲大全集」をリリースするなど、その活動は多岐に渡りました。

その後、大衆演芸作家に転身し、二葉百合子の『岸壁の母』の原作を手掛け、大衆演芸界に大きな足跡を残しました。77歳時には、自身の作品や友人である坂野比呂志の作品を集成した『香具師口上集』を出版し、香具師文化の記録と伝承に貢献しました。

著書

『香具師口上集』創拓社 1982
『香具師口上集 続』創拓社 1984

参考文献

* 室町京之介『香具師口上集』（創拓社、1982年）所収「わが人別帳」

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