岸壁の母

岸壁の母

「岸壁の母」とは、第二次世界大戦後、ソ連からの引揚船が到着する岸壁で、我が子の帰りを待ち続けた母親たちを指す言葉です。この言葉は、単に引揚者を待つ母親の姿を表すだけでなく、戦争によって引き裂かれた家族の悲劇と、それでも希望を捨てずに待ち続ける母親の深い愛情を象徴しています。

概要

終戦後、多くの人々がソ連などからの引揚船を待ち望んでいました。その中でも、特に舞鶴港の岸壁には、連日、同じ顔ぶれの母親たちが、我が子の帰りを待ち続けていました。その姿は人々の目に留まり、次第に「岸壁の母」と呼ばれるようになりました。そして、マスコミによって報道されることで、社会的な関心を集めることとなったのです。

モデル・端野いせ

「岸壁の母」の象徴となったのは、端野いせという一人の母親です。彼女は、明治32年（1899年）に生まれ、夫と娘を早くに亡くした後、養子に迎えた新二を深く愛していました。新二は軍人を志し、満州に渡りますが、終戦間際に消息を絶ってしまいます。いせは、息子の生存を信じ、昭和25年（1950年）から6年もの間、舞鶴の岸壁に通い続けました。引揚船が来るたびに、息子の姿を探し求めたのです。厚生省から死亡認定が出され、戦死告知書が発行されても、彼女は決して諦めませんでした。昭和56年（1981年）に亡くなるまで、息子の帰りを信じ続けたのです。

しかし、平成12年（2000年）になって、新二が上海で生存していたという情報がもたらされました。新二は、シベリア抑留を経て中国共産党軍に従軍し、その後上海で生活していたのです。彼は、母親が舞鶴で待っていることを知っていましたが、帰国を拒否しました。その理由は不明ですが、戦争によって人生を大きく変えられた一人であることは確かです。新二の消息が明らかになった後も、「岸壁の母」の物語は、多くの人々の心を揺さぶり続けています。

流行歌

菊池章子版

昭和29年（1954年）には、菊池章子が歌う「岸壁の母」がレコードとして発売され、大ヒットしました。作詞家の藤田まさは、端野いせのインタビューに深く感動し、母親の愛と戦争への怒りを込めて歌詞を書きました。作曲家の平川浪竜は、その歌詞に共感し、徹夜で作曲しました。菊池章子の歌声は、聴く人の心を揺さぶり、多くの人々の涙を誘いました。菊池自身も、歌うたびに涙が止まらなかったと語っています。この歌は、発売と同時に全国的な大ヒットとなり、多くの人々の共感を呼びました。

二葉百合子版

二葉百合子は、昭和46年（1971年）にカバーアルバムで「岸壁の母」を歌い、その後、歌謡[[浪曲]]としてシングルカットしました。彼女の歌は、情感豊かで、聴く人の心を強く揺さぶりました。二葉は、端野いせと親交があり、いせから直接話を聞いたことで、この歌に対する思い入れは非常に強かったといいます。二葉百合子版は、昭和51年（1976年）にはオリコンヒットチャートで年間5位になるほどの大ヒットとなりました。さらに、映画化やドラマ化もされ、多くの人々に知られるようになりました。二葉百合子は、現在でも「岸壁の母」を歌い続けており、この歌は彼女の代表曲の一つとなっています。

その他のカバー

「岸壁の母」は、多くの歌手によってカバーされています。ちあきなおみ、天童よしみ、藤圭子、石川さゆり、島津亜矢、坂本冬美など、様々なジャンルの歌手が、それぞれの解釈でこの歌を歌っています。この事実は、「岸壁の母」が、時代を超えて愛され続けている歌であることを示しています。

まとめ

「岸壁の母」は、単に一人の母親の物語ではなく、戦争によって引き裂かれた家族の悲劇、そして、それでも希望を捨てずに待ち続ける母親の深い愛情を描いた物語です。この歌は、戦争の悲惨さを伝え、平和の大切さを訴え続けています。また、この物語は、多くの人々の心を揺さぶり、今もなお、感動を与え続けています。

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