室矢芳隆

室矢芳隆の軌跡

室矢芳隆（むろや よしたか、1930年4月6日 - 2019年3月23日）は、日本の陸上界に名を刻んだ中距離走の選手です。石川県羽咋郡中甘田村（現在の志賀町）に生まれた彼は、塩田を営む家族の中で育ち、7人兄弟の次男として多忙な幼少期を過ごしました。日々の生活の中で足腰を鍛える機会が多かった彼は、地元の自然や労働から体力を培いました。

10代の頃から運命を変える出来事が訪れました。時代背景は軍国主義が強まる中、室矢は旧制中学校での学業の途中から志願兵となり、戦地には送られることなく終戦を迎えます。その後、新制石川県立羽咋高等学校に復学し、ここで名選手の広橋百合子から陸上競技を学びました。広橋の指導のもと、室矢は陸上競技に自信を持ち、1947年の全国中学陸上では800mに出場し、見事に2位に入賞しました。

しかし、この成功の裏には苦い経験もありました。「羽咋」という地名の誤読を経験し、彼は不快感を抱きました。この出来事がきっかけで、彼は自らの地域の名を広きに知らしめようと決意し、1948年の全国高等学校陸上競技大会では800mで優勝を果たしました。卒業の際には、恩師からロサンゼルスオリンピックで着用していた赤いセーターを贈られ、深い感謝の気持ちを持って卒業を迎えました。

高校卒業後、中央大学に進学した室矢は、そこでの競技でも頭角を現し、東京箱根間往復大学駅伝競走で2度区間賞を獲得しました。大学生活はアルバイトと競技の両立が求められ、十分な練習時間の確保が難しかったため、早朝のジョギングやダンベルエクササイズを取り入れ、自らを鍛え続けました。

その努力は実を結び、彼は1952年ヘルシンキオリンピックおよび1956年メルボルンオリンピックに出場しました。特に、メルボルンでは800mでアジア人選手として初めて準決勝に進出し、予選では好タイムを持つ他の選手を巧妙に「風避け」に利用して勝利を手にしました。また、両大会では4×400mリレーのアンカーとしても活躍し、素晴らしいラップタイムを記録しました。

実業団では八幡製鉄（現・日本製鉄）陸上部に所属し、全日本実業団対抗陸上競技選手権大会では800m競技で通算5勝を挙げました。さらに、日本陸上競技選手権大会でも男800mで3勝、1500mで2勝を果たし、特に1500mでは手術からわずか1週間後に日本新記録を樹立しました。

趣味としては、ゴルフにも興じ、1990年には日本シニアゴルフ選手権競技に出場し、53位に入ります。晩年には母校の羽咋高校に招かれ、記念講演を行い、校内マラソンのスターターを務めるなど、後進への育成にも力を注ぎました。2019年3月23日、室矢芳隆は88歳でこの世を去りました。その生涯は、日本陸上競技界に偉大な足跡を残しました。

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