宮崎安貞

宮崎安貞は、元和9年（1623年）に広島で生まれ、江戸時代前期に活躍した農学者です。幼少の頃から山林奉行であった父の影響で山歩きを好み、自然に対する関心を深めました。25歳で福岡藩に仕官し、山林奉行として200石を与えられますが、30歳を過ぎて職を辞し、筑前国女原村に隠居しました。

隠居後は、自ら農耕に従事する傍ら、農業技術の改良に尽力しました。諸国を巡り、老農から話を聞き、山林や河川を観察することで、実践的な知識を蓄えました。また、京都では儒学者である貝原益軒と交流し、中国の農業書や本草書を研究しました。

特に、明代の農書「農政全書」から大きな影響を受け、自らの経験と研究に基づいて、73歳で「農業全書」を著しました。この書は、地理的な記述も豊富で、当時の農業技術や知識を集大成したものであり、後世に大きな影響を与えました。

「農業全書」の出版後間もなく、安貞は亡くなりますが、その功績は高く評価され、明治時代には正五位が追贈されました。また、福岡県立糸島農業高等学校では、一時、彼の名を冠して「福岡県立安貞高等学校」と改称された時期もありました。

宮崎安貞は、単なる学者ではなく、自ら農作業に励みながら、農業の発展に貢献した実践的な農学者でした。彼の残した「農業全書」は、現在でも農業史研究における重要な資料として、その価値を認められています。

農業全書について

「農業全書」は、宮崎安貞が長年の経験と研究に基づいて著した農書です。中国の「農政全書」を参考にしつつ、日本の風土や気候に合わせた農業技術が詳細に記述されています。本書の特徴として、地理学的な記述が豊富であることが挙げられます。これは、安貞が諸国を巡って得た知識や観察に基づいており、単なる農業技術書にとどまらず、当時の日本の地理的な状況を知る上でも貴重な資料となっています。

本書には、稲作、畑作、果樹栽培、養蚕など、多岐にわたる農業技術が網羅されており、農具の改良、肥料の利用法、病害虫対策など、具体的な方法が示されています。また、新田開発や干拓事業についても言及されており、安貞がこれらの事業に深く関わっていたことが窺えます。さらに、本書は単なる技術書としてだけでなく、農民への倫理的な指導も含まれており、農業を通じて社会に貢献することの重要性を説いています。

「農業全書」は、江戸時代から明治時代にかけて、多くの農民や農業指導者によって読まれ、農業技術の発展に大きく貢献しました。明治時代以降も、農業史研究における重要な資料として、その価値は失われていません。

参考文献

岡田俊裕著 『日本地理学人物事典 ［ 近世編 ］』 原書房 2011年 ISBN 978-4-562-04694-2

外部リンク

朝日日本歴史人物事典『宮崎安貞』 - コトバンク
宮崎安貞墓 附宮崎安貞書斎 - 福岡市の文化財
くぼたのたんぼ：宮崎安貞

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