害必要数

害必要数（NNH）とは

害必要数（Number Needed to Harm：NNH）は、疫学における重要な指標の一つで、ある危険因子に曝露された際に、何人の人に有害な影響（副作用や疾患など）が現れるかを示す数値です。この指標は、特定の介入や曝露がもたらす可能性のあるリスクを評価する上で不可欠であり、特に医療分野における意思決定を支援するために用いられます。

NNHの定義と計算

NNHは、絶対リスク増加の逆数として定義され、以下の式で計算されます。


1 / (Ie - Iu)


ここで、

Ie は、治療（曝露）群における有害事象の発生率
Iu は、対照（非曝露）群における有害事象の発生率

NNHの値が小さいほど、その危険因子は有害であると解釈されます。例えば、NNHが1である場合は、その危険因子に曝露された人全員に有害事象が発生することを意味し、その危険因子の有害性が極めて高いことを示します。逆に、NNHが大きい場合は、その危険因子に曝露されても有害事象が発生する可能性が低いことを意味します。

NNHの重要性

NNHは、根拠に基づいた医療（EBM）において重要な指標として活用されています。医療現場では、治療効果がある一方で、患者に有害な影響をもたらす可能性のある治療法を選択しなければならない場面がしばしばあります。そのような状況下で、NNHを参考にすることで、医師は患者にとって最善の治療法を選択するための判断材料を得ることができます。NNHは、治療による利益と不利益を比較検討する上で、非常に有用な情報を提供します。

NNHの限界

NNHは有用な指標である一方で、いくつかの限界点も抱えています。その一つとして、信頼区間が欠如している点が挙げられます。信頼区間がないと、NNHの値がどの程度正確であるのかを評価することが困難になります。また、バイアスの影響を受けやすいという問題点もあります。さらに、二つの異なる治療法やグループ間に統計的に有意な差がない可能性を完全に排除することが難しいという点も考慮する必要があります。

NNTとの関連性

NNHに関連する指標として、治療必要数（Number Needed to Treat：NNT）があります。NNTは、NNHと同様に、治療効果を評価するための指標として用いられますが、NNTは「絶対リスク減少の逆数」として定義され、治療によって何人の患者が利益を得られるかを示す指標です。NNTとNNHを組み合わせることで、治療による利益と不利益の両方を考慮した、よりバランスの取れた意思決定を行うことが可能になります。

まとめ

NNHは、ある危険因子が人体に与える有害な影響を数値化し、医療における意思決定を支援するための重要な指標です。しかし、NNHには信頼区間の欠如やバイアスの影響を受けやすいなど、いくつかの限界点があることも理解しておく必要があります。NNHを使用する際には、その長所と短所を理解した上で、他の指標と合わせて総合的に判断することが重要です。また、薬剤経済学などの分野においても、NNHは費用対効果を評価する上で重要な要素となります。

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