家族狩り

『家族狩り』について

天童荒太によって1995年に発表された『家族狩り』は、連続して発生する家族を狙った殺人事件を背景に、登場人物たちの複雑な心の動きを描いた作品です。この小説は、単行本版が激しい残虐描写に賛否を受けましたが、そのテーマ性と構成力が高く評価され、1996年には第9回山本周五郎賞を受賞しました。その後、文庫版が2004年に登場し、内容が大幅に改稿されていますが、基本的なストーリーラインは維持されています。また、本作は2014年にテレビドラマとしても映像化され、多くの視聴者に親しまれました。

制作背景とテーマ

天童荒太は、本作を書くにあたって、「家族にかえろう」という当時の風潮に反発を覚え、そのアンチテーゼとしてこの作品を執筆しました。彼は、家族の崩壊が招く問題を直視しながらも、解決策を提示しない事に苛立ちを感じ、「家族にかえろう」という考え方が結果的に弱者である子供に皺寄せをすることを明らかにしました。この思いが、作品に込められたメッセージとなっています。文庫化に際して、天童は自らの考え方や社会情勢の変化を反映させ、より前向きな視点を持つ作品に改稿することを決意しました。

あらすじ

第一部 『幻世の祈り』

物語は、東京都の児童相談センターで工作する氷崎游子が、アルコール依存症の父親によって虐待を受ける少女・玲子を保護するところから始まります。同時に、美術教師の巣藤浚介や刑事の馬見原光毅が、それぞれの家庭内で抱える葛藤や痛みと向き合い、やがて事件の渦に巻き込まれていく様子が描かれています。

第二部 『遭難者の夢』

游子は玲子の案件に対応する中で、虐待被害者の過去を抱える自らの苦悩とも向き合います。一方、浚介は衝撃的な事件の影響で心の傷を負い、アルコール依存に苦しむ中で新たな出発を目指します。

第三部 『贈られた手』

綾女と研司を中心に、社会的問題が絡む家庭内の複雑な人間関係が浮かび上がります。事件の真相を探る馬見原は、自らの家庭の崩壊と向き合いながら捜査を続けます。

第四部 『巡礼者たち』

登場人物たちは、お互いの関係性を見つめ直し、過去を乗り越えようと奮闘します。その中で、悲劇の連鎖がどのように生じているのか、また、家族のあり方について再考が促されます。

第五部 『まだ遠い光』

物語がクライマックスを迎える中で、登場人物たちは自らの過去と決別し、新たな未来へと進む力を見つけ出します。最終的に、家族とは何か、愛とは何かを問い直す結末に至ります。

登場人物たちの葛藤

本作は、個々の登場人物が自らの苦悩と向き合う様子を描写しています。游子の心の傷、浚介の自己認識、馬見原の家庭の崩壊など、各キャラクターが抱える問題が相互に影響し合い、物語をさらに深淵にしています。

作品の評価

『家族狩り』は、その重厚なテーマとリアリティ溢れる描写により、多くの読者や書評家から高い評価を受けています。特に社会問題に対する鋭い視点が、多くの支持を集め、セリフを通じて明確に伝えられるキャラクターたちの心理描写は、読者に強く訴えかけます。

その口コミや評価を受けて、さまざまなメディアで取り上げられ、物語の持つ深いメッセージが視覚的にも表現されることとなりました。

最後に

天童荒太の『家族狩り』は、登場人物たちによる心の葛藤と、連続家族裏切り殺人事件という衝撃的な構成が見事に組み合わさった作品です。心理的な側面を掘り下げつつ、社会問題を提起するこの小説は、読者に考えさせる力を持っています。

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