富春山居図

富春山居図：水墨画の金字塔とその波乱万丈の歴史

『富春山居図』は、元朝を代表する画家、黄公望（1269-1354）が晩年、1350年頃に制作した水墨画です。紙本に描かれたこの作品は、中国水墨画史において最高峰の一つと評価されており、その精緻な筆致と雄大な自然描写は、後世の画家たちに多大な影響を与えました。

一枚の絵の、二つの運命

現在、『富春山居図』は、台湾の国立故宮博物院が所蔵する長さ637cmの巻子本と、中国浙江省博物館が所蔵する長さ51.5cmの『剰山図』という二つの部分に分かれています。元々は一枚の繋がった作品でしたが、清朝時代の1650年、所有者であった呉洪裕が遺言により焼却しようとした際に、焼失寸前で息子呉静庵によって救出されました。しかし、巻頭の焼けた部分は分離され、美術商呉其貞の手に渡り、修復されたものが『剰山図』として現在に残されています。

残りの主要部分は、その後、収集家である安岐を経て乾隆帝の手に渡り、現在に至っています。乾隆帝は、この作品を大変気に入り、宮廷に収蔵しました。

模本と真本：乾隆帝と『子明巻』

乾隆帝は、1745年に『富春山居図』の模本である『子明巻』を宮廷に納め、多数の賛(作品に書き込む鑑賞文)を書き込んでいます。翌年、真本である『富春山居図』が納められた際にも、短い賛を記していますが、『子明巻』を「模本ながら秀作」と評価したことが記録に残っています。1926年頃までは『子明巻』が真本とみなされていましたが、後の研究により模本であることが判明し、安岐旧蔵の作品が真本と認められるようになりました。この安岐旧蔵の真本は、「無用師巻」と呼ばれています。

後世への影響：模本と継承

『富春山居図』の高い芸術性と歴史的価値から、多くの画家が模本を制作しました。例えば、明代の著名な画家沈周の模本は北京の故宮博物院に、王石谷の模本はアメリカのフリーア美術館に所蔵されています。これらの模本は、オリジナル作品への深い敬意と、中国水墨画の伝統と技法の継承を示す重要な資料となっています。

まとめ：時を超えて語り継がれる名画

『富春山居図』は、単なる絵画作品を超えて、中国の歴史と文化、そして芸術の深遠さを象徴する存在です。焼失の危機を乗り越え、幾多の収集家の手によって大切に受け継がれてきたこの作品は、現在も人々を魅了し続けています。その精緻な筆致、雄大な風景、そして波乱に満ちた歴史は、これからも多くの人々に感動と驚きを与え続けることでしょう。

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