富民協会

富民協会（ふみんきょうかい）は、1927年（昭和2年）に実業家であり大阪毎日新聞社社長であった本山彦一によって設立された財団法人です。

協会の設立にあたっては、本山が大阪毎日新聞（現在の毎日新聞大阪本社）に40年間勤めた際の功労金50万円のうち20万円が拠出され、さらに本山が朝鮮に所有していた水田や畑265町9反5畝（当時の時価で30万円）も基本財産として提供されました。これにより、協会は安定した財政基盤をもって活動を開始しました。

富民協会の目的は、農事開発を通じて日本農業界の向上と進歩に貢献することにありました。その活動は多岐にわたり、例えば試験農場の経営、米や麦の多収穫技術の奨励、農民による芸術品の展覧会開催、優れた農業従事者である精農や優良な農事組合の表彰などを行いました。加えて、全国各地から農村青年を集めて、農業経営の改善に関する講習会を開くなど、教育普及活動にも力を入れました。

出版社としての活動も重要な柱の一つでした。1929年からは『富民協会報』を発行し、その後は月刊誌の発行に注力しました。1936年から1959年にかけては月刊誌『富民』を断続的に発行。1959年から1989年12月までは毎日新聞社を発売元として、後継誌にあたる月刊誌『農業富民』を発行しました。1990年1月からは誌名を『Fumin』と改め発行を続けましたが、1998年3月に休刊に至りました。

定期刊行物だけでなく、単行本の出版にも積極的に取り組みました。1930年の『富民叢書〈第1-3集〉』を皮切りに、農業に関する幅広いテーマの書籍を世に送り出しました。『秋播草花の作り方』（1933年）、『柑橘と柿・栗の実利的栽培法』（1933年）、『昭和農業発達史』（1937年）、『新農家宝典』（1947年）、『国土はこうして創られた?八郎潟干拓の記録』（1974年）、『新農業便覧』（1978年）、『転作に有利な野菜』（1978年）、『田舎暮らし大募集. 紫の編』（1999年）、『地域農林経済研究の課題と方法』（1999年）、『農業経営発展と投資・資金問題』（2000年）、『絵をみてつくれる冷凍食品ガイドブック』（2000年）など、その出版リストは多岐にわたります。しかし、2001年以降は出版活動をほぼ停止しました。

また、富民協会は農業博物館の設置・運営も行いました。これは、農業に関する大衆教育が不十分であることを憂慮し、一般の人々に農業知識を広く普及させることで、日本の農業の発展に貢献することを目的としたものです。博物館は大阪府の堺市と高石市（当時の泉北郡高石町）にまたがる浜寺公園内に建設が計画され、1932年（昭和7年）1月10日に起工、同年8月には竣工し開館しました。建物は鉄筋コンクリート造の3階建てで、日本インターナショナル式と呼ばれる様式が採用されていました。建坪は340坪、延床面積は900坪に及びました。

館内の1階と2階は展示室として活用され、様々な分野の資料が展示されていました。例えば、第1室では土壌や肥料に関する「土壌肥料部」、第2室では主要作物、品質改良、園芸、工芸作物に関する「農産部」、第3室では農村の手工芸、養鶏、養畜といった副業に関する「副業部」が設けられていました。さらに、第4室では農業統計、経営、販売、行政、比較農業などを扱う「農政経済部」、第5室では植民地農業に関する資料が展示されていました。3階には、本山彦一が収集した考古学上の参考品を陳列する「本山考古室」のほか、大講堂、講義室、大露台が備えられていました。

この博物館建物は、戦後の1947年（昭和22年）4月22日、高石町立中学校（現在の高石市立高石中学校）の校舎として転用され、同年10月には改修工事が完了しました。高石中学校が現在の校地に移転した後は、大阪府羽衣青少年センターとして利用されていましたが、現在では建物は取り壊されており現存していません。

富民協会は、設立から長きにわたり日本の農業振興に貢献しましたが、2004年7月に解散しました。

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