本山彦一

本山 彦一

嘉永6年8月10日（1853年9月12日）、肥後国熊本城下（現在の熊本市中央区）に生まれた本山彦一（号は松蔭）は、明治から昭和初期にかけて日本の実業界、特に新聞界で大きな足跡を残した人物である。熊本藩士・本山四郎作の長男として育ち、元治元年（1864年）に家督を相続した。

幼少期は藩校時習館で漢学を学び、明治4年（1871年）には上京して箕作秋坪の門を叩いた。明治9年（1876年）には慶應義塾に進み、予科課程を修了。慶應義塾在学中には「協議社」という組織を結成し、積極的に新聞への投書活動を行うなど、若くして言論への関心を示していた。

慶應義塾を卒業後、本山は多岐にわたる経歴を歩む。明治11年（1878年）より兵庫県職員として官職に就いたのを皮切りに、神戸師範学校の校長を務めたほか、当時は隆盛を誇っていた藤田組では、牛場卓蔵のもとで支配人としてその経営手腕を振るった。さらに時事新報の記者としても活動し、岡山県児島周辺の干拓事業にも関与するなど、その活動範囲は広かった。

これらの経験を通じて関西経済界に確固たる地位を築いた本山は、明治生命保険、山陽鉄道、大阪製糖、南海鉄道など、数々の主要企業の取締役を歴任。そして、関西財界からの強い推挙を受け、大阪毎日新聞社の経営に関わることとなる。明治22年（1889年）からは相談役として経営陣に加わり、明治31年（1898年）に原敬が社長に就任すると、本山は原と連携し、社務を分担する体制で新聞経営にあたった。

明治36年（1903年）、本山が社長に就任すると、大阪毎日新聞はさらなる発展を遂げる。特に注目すべきは、東京への本格的な進出であった。明治39年（1906年）には、東京を拠点とする『毎日電報』紙を創刊。そして明治44年（1911年）には、当時東京で最大級の日刊紙であった『東京日日新聞』を買収・合併するという大胆な経営判断を下し、これにより名実ともに日本を代表する全国紙へと毎日新聞を発展させた。

この「本山時代」と呼ばれる時期は、毎日新聞社が報道機関としてのみならず、文化事業においても多角化を進めた時代でもあった。大正11年（1922年）には、経済誌『エコノミスト』、総合週刊誌『サンデー毎日』、そして『英文毎日』、『点字毎日』といった多岐にわたる出版物を次々と創刊。これにより、多様な読者層へのアプローチを成功させた。

実業家としての手腕に加え、本山は言論人・政治家としても活動した。大正10年（1921年）には臨時国語調査会の委員として参加し、かねてからの持論であった漢字制限案を提唱するなど、その先見性は高く評価されている。また、富民協会の設立など、社会や文化の振興事業にも多大な貢献を果たした。そのほかにも、明治生命保険相互会社の取締役、東亜調査会長、国際観光委員会委員、文政審議会委員などを兼任し、その影響力は広範に及んだ。

昭和5年（1930年）12月23日には貴族院議員に勅選され、同和会に所属。逝去するまでの間、その職を務めた。昭和7年（1932年）12月30日に死去。享年80（満79歳）。没後、従四位の位階と、勲一等瑞宝章を授けられた。

栄典

位階: 従四位（昭和7年12月30日）
勲章: 勲三等瑞宝章（大正4年11月10日）、勲二等瑞宝章（昭和3年11月10日）、勲一等瑞宝章（昭和7年12月30日）

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