寒巌義尹

寒巌義尹：鎌倉時代中期の禅僧とその功績

寒巌義尹(1217-1300)は、鎌倉時代中期に活躍した曹洞宗の僧侶であり、寒巌派（法皇派）の祖として知られています。父については、後鳥羽天皇とする説と順徳天皇とする説があり、いずれにしても皇室との繋がりを持つ高貴な出自であったと考えられています。

義尹は寛喜3年（1231年）に出家。当初は比叡山で天台教学を学びましたが、仁治2年（1241年）、深草興聖寺で道元に師事し、道元の越前への移転にも同行しました。建長5年（1253年）には中国へ渡り、宋で研鑽を積んだ後、建長6年（1254年）に帰国しています。帰国後は、道元の弟子である永平寺2世孤雲懐奘に師事しました。

正元2年（1260年）頃からは、肥後国宇土郡に移り、当地の有力者である古保里越前守の娘、素妙尼の要請を受けて如来寺を建立しました。その後も修行を続け、文永元年（1264年）には道元の語録を携えて再び宋へ渡り、無外義遠、退耕徳寧、虚堂智愚らといった著名な禅僧に師事しました。文永4年（1268年）に帰国後は、博多の聖福寺にしばらく滞在した後、肥後へと戻り、建治2年（1276年）には益城郡に極楽寺を開創しました。

義尹は宗教活動のみならず、社会貢献にも積極的に取り組んでいました。建治2年（1276年）5月には、九州における難所として知られていた緑川の大渡に架橋計画を立案し、「大渡橋幹縁疏」を作成しました。この計画は、肥後国河尻庄地頭河尻泰明や北条氏の支援を受けて実現し、2年後の弘安元年（1278年）7月に完成、盛大な供養が執り行われました。「大渡橋供養記」には、この事業の経緯が詳細に記録されています。

大渡橋の架橋事業は、義尹と河尻泰明との関係を深める契機となり、弘安6年（1283年）には泰明から寄進された土地に大慈寺を開創しました。大慈寺は正応元年（1288年）には後宇多上皇の祈願所となり、曹洞宗の九州における中心寺院として発展を遂げました。

正安2年（1300年）、義尹は如来寺へ隠遁し、84歳で入寂しました。如来寺境内に義尹の墓所と伝えられる石塔が残されており、宇土市指定文化財に指定されています。

義尹の生涯と活動は、数多くの研究論文で取り上げられています。その中には、義尹の出自、肥後への進出の背景、そして大慈寺を中心とした宗教活動に関する詳細な分析が含まれています。これらの研究論文は、義尹の宗教的影響力や社会貢献、そして鎌倉時代後期の九州における仏教界の動向を理解する上で貴重な資料となっています。特に、北条氏との関係や、地方豪族との連携といった政治的・社会的な側面についても、今後の研究が期待されます。 義尹の活動は、単なる宗教活動にとどまらず、当時の社会基盤整備にも貢献した点を考慮すると、その功績は高く評価されるべきでしょう。

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