寒椿 (宮尾登美子)

小説『寒椿』と1992年映画版

概要

『寒椿』（かんつばき）は、作家宮尾登美子による小説で、1992年には同名の映画も公開されました。本作は、昭和初期の高知を舞台に、女衒として知られた元やくざの富田岩伍と、その周囲に繰り広げられる人間ドラマを描いています。物語は、家族や社会の厳しさ、そして愛情の複雑さを巧みに表現しています。特に、岩伍の息子・健太郎の視点が作品全体に新たな深みを加えています。

ストーリー

物語は、昭和の初めの高知に始まります。富田岩伍は、かつては任侠の世界で生きていた男ですが、堅気の女性・喜和と結婚するため、女衒の道に進みました。彼は人の心を理解する能力があり、多くの芸妓を世話しながら繁忙な日々を送っています。しかし、喜和がその家業に耐えられず家を出て行くと、岩伍は一人息子・健太郎と向き合うことになります。

多感な少年期を迎えた健太郎は、父の職業に対して反発しつつも同時に興味を抱き、複雑な感情を抱えながら成長していきます。

ある日、岩伍の元に貞子という女性が売られてきます。彼女は高知で初めての女性バスガイドとして働く予定でしたが、岩伍に見初められ、芸妓としての道を歩むことになります。貞子は「牡丹」と名付けられ、厳しい仕込みを経て晴れて芸妓としてデビューを果たします。彼女はすぐに高名な上客たちに気に入られ、華やかさと儚さを兼ね備えた存在となりますが、心の奥底には自分を親に売った岩伍への感謝の気持ちが渦巻いています。

物語は、平民選挙の実施とともに再び盛り上がります。守宏と中岡という2人の上客がそれぞれ立候補することになり、牡丹を巡る争いが激化します。一方、守宏の用心棒である仁王山という男も牡丹に魅了され、彼女の運命に強く関わっていくことになります。仁王山は牡丹を奪おうと嫉妬に駆られ、ついには彼女を拉致する事件が発生します。この出来事が牡丹の運命を一変させることとなるのです。

映画版

1992年5月30日に公開された映画『寒椿』は、東映系で上映され、「宮尾登美子原作シリーズ」として第6弾にあたります。特に、ヒロインの貞子（牡丹）を演じた南野陽子が初めて濡れ場を演じたことで、話題を呼びました。監督は降旗康男、脚本は那須真知子が手掛け、昭和初期の高知の文化や社会情勢も巧みに描かれています。

映画は、岩伍と牡丹、そして仁王山との複雑な人間関係を中心に展開し、物語に多くの深みを与えています。特に、健太郎の視点を交えた描写が新鮮で、視聴者に様々な感情を呼び起こします。

キャスト

映画には多彩なキャストが登場し、特に岩伍役の西田敏行、牡丹役の南野陽子は注目を集めました。仁王山役の高嶋政宏や、松崎みねを演じたかたせ梨乃など、個々のキャラクターも物語を彩っています。さらに、選挙に関わる多田父子や中岡との人間模様も物語に奥行きを与えています。

作品の評価

公開から時間が経った現在でも、本作は色褪せることなく、昭和初期の人間ドラマとして愛され続けています。作品全体の完成度が高く、登場人物たちの生き様がしっかりと描かれているため、今なお多くの人に感動を与えています。

もう一度検索