寛慶

寛慶（かんけい）

寛慶は、平安時代後期に活躍した天台宗の僧侶です。寛徳元年（1044年）に右大臣藤原俊家の三男として生まれ、母は藤原季範の娘です。幼少の頃から仏道に志し、慶範、広算、賢暹といった高僧に師事して教えを受けました。

寛治5年（1091年）には法眼に叙せられ、比叡山無動寺の大乗坊に居を構えました。その後、藤原忠実の庇護を受けるようになり、病気平癒などの祈祷を数多く行いました。天仁元年（1109年）には無動寺管領、多武峰座主に任じられ、天永2年（1111年）には権大僧都に昇進しました。

寛慶の生涯において特筆すべきは、延暦寺の内部抗争に深く関わったことです。天永2年（1111年）には、延暦寺の悪僧の行動に対して白河法皇から解決策を求められた天台座主の仁豪が、治安の安定化策を進めました。これに対し、寛慶は無動寺を代表して奏状への署名を拒否し、法皇に異議を唱えました。座主・僧綱の会議においても、仁豪が座主に権力を集中させようとしたのに対し、寛慶は各寺院がそれぞれの責任で綱紀粛正を行うべきだと主張して対立しました。

永久元年（1113年）には法性寺座主に任ぜられますが、この年には延暦寺の大衆が清水寺を破壊するという事件が発生します。この事件で、興福寺の僧兵が抗議の強訴を行い、興福寺側は事件の責任者として天台座主の仁豪とともに寛慶の配流を要求しました。しかし、平忠盛らの活躍により、興福寺の強訴は鎮圧されました。寛慶は、清水寺の破壊の責任は仁豪にあると主張し、天台座主の辞任を求め、これに同調した大衆が強訴を起こしましたが、これも検非違使によって鎮圧されました。

その後も寛慶は仁豪の命令に従わず、大衆同士の衝突も発生。仁豪は寛慶による座主職奪取の企てを白河法皇に訴えました。しかし、寛慶は永久2年（1114年）には法成寺の権別当に起用され、永久4年（1116年）には正式な別当となりました。保安元年（1120年）に僧都に叙せられた後、保安2年（1121年）には、ついに仁豪に代わって天台座主に任じられ、同時に権僧正に昇進しました。

しかし、寛慶の天台座主としての道のりも平坦ではありませんでした。保安3年（1122年）には、延暦寺と園城寺の対立の対応を巡って、根本中堂の大衆から襲撃を受け、一時的に比叡山を退去せざるを得なくなりました。その後、復帰したものの、保安4年（1123年）に天台座主のまま死去しました。

寛慶の門下からは、無動寺を継承し、後に青蓮院門跡の祖とされる天台座主行玄が輩出されました。青蓮院門跡の成立には、寛慶と仁豪の対立が法流間の対立として弟子たちに引き継がれ、やがて法流のトップに法親王などの貴種を入れることによって確立されたという背景があったと考えられています。

寛慶の生涯は、天台宗内部における権力闘争や、寺院間の対立といった、平安時代後期の仏教界の複雑な状況を反映したものでした。その行動は時に大胆で、既存の権力に異を唱えることも厭いませんでした。それゆえ、彼の存在は、当時の仏教界に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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