審尋

審尋（しんじん）

審尋とは、日本の民事手続において、裁判所が最終的に「決定」という形式で判断を下す前に、関係者からその事件に関する意見や主張を聴取するための手続きです。主に、訴訟の本筋から派生した特定の事項や、民事保全、破産、家事事件など、迅速な判断が求められる手続きで用いられます。

審尋の性質と目的

この手続きの主な目的は、裁判所が一方的な判断に偏ることなく、当事者双方または利害関係人から直接または書面を通じて事情を把握し、公平かつ的確な決定を行うための判断材料を得ることにあります。当事者やその代理人、あるいは事件に直接関わる利害関係人が、自己の立場や主張を裁判所に伝える機会となります。

法的根拠と実施の要否

審尋に関する規定は、民事訴訟法や民事保全法など、様々な法律に置かれています。その実施が法律上必要とされる場合（必要的審尋）と、裁判所の判断に委ねられる場合（任意的審尋）があります。

必要的審尋の例: 第三者に対する文書提出命令を出す場合や、財産や地位を仮に確保するための仮処分命令を発令する場合など、法律が特に定める重要な場面では、原則として審尋を実施することが義務付けられています。これは、相手方や第三者の権利に大きな影響を与える可能性があるため、慎重な判断が求められるからです。
任意的審尋の例: 法律が「審尋をすることができる」と定めている場合、裁判所はその必要性を判断し、審尋を行うか行わないかを決定できます。事案の性質や提出された書面の内容から、審尋を行う必要がないと判断されれば、手続きを省略して決定を下すこともあります。

審尋の方式

審尋には特定の厳格な方式は定められていません（無方式）。このため、事案や状況に応じて柔軟な方法が取られます。

書面による審尋: 当事者や利害関係人が、意見や主張を記載した書面（民事保全では「主張書面」と呼ばれることもあります）を裁判所に提出する形式で行われることが最も一般的です。
裁判官面前での審尋: 非公開の場で、裁判官と当事者またはその代理人が直接面談し、口頭で意見を述べたり、提出済みの書面について説明したりする形式も行われます。この際、事件に関連する参考人を出頭させて話を聞くことも可能です。

実施方法：双方審尋と一方審尋

裁判官の面前で審尋を行う場合、原則としては当事者双方または関係者全員から同時に話を聞く「双方審尋」が想定されます。しかし、必ずしも同時に行う必要はなく、裁判所の判断で個別に話を聞くことも妨げられません。

特に、申立てを受けた相手方に事前に知られると、申立ての目的が達成できなくなるような場合（例えば、財産を隠匿される可能性がある仮差押えの申立てなど）には、申立てを行った一方の当事者のみから非公開で事情を聴取することがあります。これを「一方審尋」と呼びます。

一方審尋は、保全命令の申立てのほか、破産手続における免責の申立て、配偶者からの暴力防止等に関する法律に基づく保護命令の申立てなど、緊急性や秘匿性の高い場面で実施されることがあります。この際、裁判官と申立人との面談形式で実施されることが多く、一般的に「面接」と呼ばれることもあります。このような一方審尋は、裁判官が申立人の主張の趣旨や根拠を確認し、事実関係や争点を明らかにするという点で、民事訴訟法に規定される釈明処分の性格を帯びることもあります。

他の手続との関係

審尋は、公開の法廷で双方の言い分を戦わせる「口頭弁論」とは異なり、原則として非公開で行われる点に特徴があります。また、口頭弁論では厳格な期日や方式が定められているのに対し、審尋はより柔軟な運用が可能です。審尋の際に提出される書面は「準備書面」またはそれに類するものとして扱われます。

審尋は、決定手続における裁判所の判断を支援し、関係者の意見を反映させるための重要な手続きであり、民事手続の円滑な進行に貢献しています。

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