寺井玄渓

寺井玄渓：赤穂事件と関わりを持った江戸時代の医師

寺井玄渓は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した医師です。1622年、元和8年に生まれ、1711年、宝永8年に90歳でこの世を去りました。玄渓とその父は、播磨国明石藩主、本多政利に仕えていました。本多政利は6万石を領する大名でしたが、数々の不祥事を起こし、天和2年（1682年）には藩政の不正を咎められ、陸奥国大久保藩への転封、そして領地の大幅な減知を余儀なくされました。

この減知にも関わらず、玄渓は本多家に仕え続けました。しかし、本多政利の不祥事は止まらず、侍女殺害などの事件を起こし続け、最終的に元禄6年（1693年）には領地を完全に召し上げられてしまいました。

主君を失った玄渓は、その後京都で医業を営んでいました。転機が訪れたのは元禄13年（1700年）のことです。播磨国赤穂藩から招かれ、浅野長矩に仕えることになりました。その役職は藩医で、300石5人扶持という待遇でした。

そして、歴史の転換点となる元禄14年（1701年）3月14日、浅野長矩が吉良上野介に刃傷に及ぶという、いわゆる赤穂事件が発生しました。当時、玄渓は江戸藩邸に詰めていましたが、事件後すぐに赤穂へと向かい、赤穂藩家老の大石良雄に従って行動しました。赤穂城開城後は再び京都へ戻りました。

元禄15年（1702年）7月、浅野長矩の子である浅野長広が広島藩のお預かりとなり、大石良雄が江戸へ下る決意を固めると、玄渓も同行しようとしました。しかし、大石良雄は8月6日に玄渓に書簡を送り、同行を制止しました。代わりに、玄渓の息子である玄達が江戸へ行き、赤穂浪士たちの治療にあたったと伝えられています。

このように、寺井玄渓は主君である浅野長矩に仕え、赤穂事件に深く関与しました。その生涯は、主家の変遷や赤穂事件という激動の時代を反映しており、医師としてだけでなく、幕末期の人間ドラマの一端を担った人物として、歴史に名を刻んでいます。宝永8年（1711年）2月20日、京都で生涯を閉じました。享年90。その墓は、京都の長楽寺にあります。法名は桐庵玄渓居士です。彼の功績は、単なる医師としての枠を超え、時代を生き抜いた一人の人間の物語として、今も人々の心に語り継がれています。

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