寺封

寺封（じふ）とは

寺封とは、古代日本において寺院に対して与えられた封戸のことを指します。これは、寺院の建立や維持にかかる費用を賄うために、一時的に支給されたものでした。しかし、その実態は当初の目的とは異なり、制度として変遷を遂げていきました。

寺封の始まりと変遷

寺封の制度は、天武天皇9年（680年）に既存の寺封に対して30年の期限を設ける勅が出されたことに始まります。これは、寺封が一時的な措置であることを明確にするものでした。しかし、その後の禄令では支給期間が5年以下と定められたものの、実際にはこれらの規定は守られず、寺封は「永年」と称して支給されるようになりました。さらに、宝亀11年（780年）には「永年」の寺封を天皇一代限りとする勅が出されましたが、これもまた遵守されることはありませんでした。寺封の施入に関する具体的な規定はなく、天皇の勅によって決定されていたと考えられています。

寺封の対象となった寺院

大同元年（806年）の太政官牒によれば、東大寺には5000戸という最大の寺封が与えられていたことがわかります。その他にも、飛鳥寺（1800戸）、山階寺（1200戸）、西大寺（630戸）など、計24の寺院に寺封が与えられていたことが記録に残っています。また、記録にはないものの、寺封を受けた寺院は合計で50寺以上存在したと推測されています。これらの寺院は、由緒ある寺院や大寺院が中心であり、平安時代に建立された新しい寺院への施入は少ない傾向にありました。

寺封の衰退と荘園へ

寺封の記録は9世紀までが多く、10世紀になると寺封施入の記録は見られなくなります。また、既存の寺封からの封物の納入も不安定になり、その代替として認められた便補保（べんぽほ）の設定が、後の寺院の荘園へと繋がっていきます。寺封は、古代寺院の経済基盤を支える重要な役割を果たしていましたが、その制度は時代とともに変容し、最終的には荘園制度へと移行していったと考えられています。

まとめ

寺封は、古代寺院の経済活動を支える重要な制度でしたが、その運用は必ずしも法令に則って行われたわけではありませんでした。初期の寺封は一時的な措置として始まったものの、実際には永年化し、多くの寺院の運営を支えました。しかし、その制度は10世紀には衰退し、寺院の荘園の形成に繋がるという歴史的変遷をたどったのです。

参考文献

• - 水野柳太郎「寺封」（『国史大辞典 7』、吉川弘文館、1986年）
• - 阿部猛「寺封」（『平安時代史事典』、角川書店、1994年）

もう一度検索