封戸

封戸（ふこ）とは

封戸とは、古代日本の律令制度下において、貴族や寺社に対して特定の公民の戸を支給する制度です。この制度は、中国の春秋戦国時代の周や漢の時代の食邑（しょくゆう）に相当し、支給された戸から徴収される税を貴族の収入としました。

制度の概要

封戸は、「封戸を食む（はむ）」という言葉が示すように、支給された戸から上がる税を食料や生活費に充てるものでした。このため、実際に税を徴収する行為は「食封（じきふ）」とも呼ばれ、封戸は食封の対象となる戸そのものを指す場合もありました。日本では、大化2年（646年）の「改新の詔」で初めて登場し、その後、大宝律令や養老律令によって制度が整備されました。

封戸には、以下の種類がありました。

位封（いふう）: 位階に応じて支給される封戸。五位以上の貴族（慶雲の改革以降は三位以上）に与えられました。
職封（しきふう）: 大納言以上の官職（後に参議以上）に与えられた封戸。
功封（こうふう）: 五位以上の者で、特に功績のあった者に与えられた封戸。
別勅封（べつちょくふう）: 天皇より特に授けられる封戸。
院宮封（いんぐうふう）: 中宮、上皇、東宮などの皇族に与えられた封戸。
寺封（じふう）: 寺院に与えられた封戸。原則として対象外でしたが、例外的に5年間の期限付きで支給されることもありました。
* 神封（しんぷう）: 令外の封戸として、神社に与えられた封戸。

封戸の運営

封戸が設定された令制国の国司が、封戸からの税（封物）を徴収する役割を担いました。徴収された税は、木簡を取り付けられ、租の半分と庸調の全額が京へ運ばれ、封戸の持ち主に渡されました。封戸の制度は、律令制における公民制の存在を前提としていたため、公民制が衰退すると、封戸からの京への貢納も滞るようになりました。これに代わり、封主が直接税を徴収することが認められるようになると、封戸の田地は封主の私有地、つまり荘園へと発展していくものもありました。

封戸の事例

備後国には、大安寺の封戸50戸、東大寺の封戸150戸がありました。また、長屋王邸跡から出土した木簡から、葦田郡葦田郷が氷高内親王（後の元正天皇）の封戸であったことが判明しています。安芸国では興福寺の封戸100戸、東大寺の封戸50戸があり、備後国の東大寺の封戸からは年間100斛以上の米が運ばれていたことが記録されています。

封戸がもたらした影響

封戸は、律令国家における財政基盤を支える重要な制度でしたが、公民制の衰退とともにその役割を終えました。しかし、封戸制度がもたらした影響は大きく、特に、封主による直接的な徴収が認められるようになったことが、後の荘園の成立に大きな影響を与えました。封戸が、律令制度の崩壊と荘園制の成立を結びつける重要な要素の一つであったといえるでしょう。

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