飛鳥寺

飛鳥寺：日本仏教の原点

飛鳥寺（あすかでら）は、奈良県明日香村に位置する真言宗豊山派の寺院です。蘇我馬子が建立した日本初の本格的な仏教寺院として知られ、日本の仏教文化の発展に大きく貢献しました。本尊は「飛鳥大仏」と通称される釈迦如来で、その歴史と文化的価値は非常に高いです。

寺号の変遷

飛鳥寺は、創建当初「法興寺」または「元興寺」と呼ばれていました。平城遷都に伴い、現在の奈良市に移転した寺院が「元興寺」となり、飛鳥に残った寺院は「安居院」として知られています。しかし、『日本書紀』では「法興寺」「元興寺」「飛鳥寺」といった呼称が混在して用いられています。

創建の経緯

飛鳥寺は、蘇我氏の氏寺として6世紀末から7世紀初頭にかけて建立されました。『日本書紀』によると、用明天皇2年（587年）に蘇我馬子が建立を発願し、物部守屋との戦いに勝利したことを記念して、寺院を建立することを誓願しました。

一方、『元興寺縁起』には、三尼（善信尼、禅蔵尼、恵善尼）が百済に渡航して受戒しようとした際、百済の客から法師寺（僧寺）を建てるべきだと進言されたことがきっかけで、用明天皇が推古天皇と聖徳太子に命じて寺を建てる土地を検討させたという記述があります。

翌崇峻天皇元年（588年）には、百済から僧侶や技術者が派遣され、飛鳥の真神原で法興寺の造営が開始されました。推古天皇元年（593年）には、塔の心柱の礎に仏舎利が納められ、推古天皇4年（596年）には寺の造営が完了したとされています。

伽藍配置

飛鳥寺の伽藍は、発掘調査の結果、中心に五重塔があり、その周囲に中金堂、東金堂、西金堂が配置された一塔三金堂式であったことが確認されています。これらの堂宇は回廊で囲まれ、回廊の南正面には中門がありました。講堂は回廊外の北側に位置していました。

本尊の造立

推古天皇13年（605年）、聖徳太子の発願により、鞍作鳥（止利仏師）が丈六の銅像を造ることになりました。高麗国の大興王から黄金が献上され、推古天皇14年（606年）に完成したとされています。しかし、『元興寺縁起』には、銅と繡の釈迦像と挟侍を「敬造」したとあり、完成年も推古天皇17年（609年）とされています。現在では、609年完成説が有力です。

隆盛と官寺化

飛鳥寺は、蘇我氏の氏寺としてだけでなく、仏教隆盛の中心地として発展しました。多くの渡来僧が訪れ、学問仏教の中心となりました。道昭も飛鳥寺で得度し、唐に渡って玄奘に師事した後、帰国して禅院を建てました。

乙巳の変で蘇我本家が滅亡した後も、飛鳥寺は朝廷との関係を維持し、天武天皇の時代には官寺と同等の扱いを受けるようになりました。文武天皇の時代には、大官大寺・川原寺・薬師寺と並ぶ「四大寺」の一つとして、朝廷の保護を受けました。

平城遷都以後

平城京への遷都に伴い、飛鳥寺も現在の奈良市に移転し、元興寺となりました。飛鳥に残った寺院は本元興寺として存続しましたが、11世紀頃から衰退し、建久7年（1196年）には雷火で塔と金堂を焼失しました。室町時代以降は廃寺同然となりましたが、江戸時代に再興され、現在に至っています。

釈迦如来像（飛鳥大仏）

飛鳥寺の本尊である釈迦如来像は、飛鳥大仏として知られています。鞍作鳥の作とされていますが、損傷が激しく、後世の補修を受けています。現存する像のどの部分が当初のものであるかについては、諸説あります。2012年の調査では、断片が火災に遭ったことと鍍金されていたことが推測されています。

寺域

飛鳥寺の伽藍は、往時は塔を中心とし、その北に中金堂、塔の東西に東金堂・西金堂が建つ、一塔三金堂式伽藍配置でした。これらの堂宇は回廊で囲まれ、回廊の南正面に中門がありました。講堂は回廊外の北側にありました。

出土品

塔心礎からは、小札甲、馬鈴、刀子、玉類など、古墳の副葬品に共通するものが出土しています。これらの出土品は、日本最古の仏塔の心礎に埋納された遺物として貴重なものです。

まとめ

飛鳥寺は、日本の仏教の黎明期を象徴する寺院です。蘇我馬子の建立から、聖徳太子の時代、そして平城遷都後の変遷を経て、現在もその法灯を守り続けています。飛鳥大仏は、その歴史と芸術的価値において、日本の仏教美術を代表する存在と言えるでしょう。

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