寺尾紗穂

寺尾紗穂：音楽と文学の境界を軽やかに越える表現者

寺尾紗穂は、シンガーソングライターでありながら、エッセイストとしても高い評価を得ている稀有な存在です。1981年東京都生まれ。音楽一家に育ち、幼少期からピアノ、中学時代から声楽を学びました。中学・高校時代はミュージカルサークルに所属し、作詞作曲にも携わっていたという経歴は、彼女の多様な才能の片鱗を示唆しています。

桐朋女子中学校・高等学校卒業後、東京都立大学人文学部文学科中国文学専攻を卒業。その後、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻比較文学比較文化コースに進学し、2007年に修士号を取得。修士論文『評伝 川島芳子』は、2008年に『評伝 川島芳子 - 男装のエトランゼ』（文春新書）として書籍化され、高い評価を得ました。この経験は、彼女の人物評や歴史に関するエッセイ執筆にも繋がっていると言えるでしょう。

大学時代にはジャズバンド「Thousands Birdies' Legs」を結成し、ボーカル、作詞・作曲を担当。その後、弾き語り活動を開始し、2007年にアルバム『御身 onmi』でソロデビューを果たしました。彼女の音楽活動の特徴は、オリジナル楽曲の作詞作曲をほぼ全て自身で行っている点にあります。ライブではピアノの弾き語り中心の演奏を展開し、その繊細で力強い歌声と、詩情豊かな楽曲は多くのリスナーを魅了しています。

寺尾紗穂の音楽は、オリジナル曲だけでなく、既存の詩や歌詞にメロディーを付けるというアプローチにも特徴があります。初期には都守美世の歌詞や尾崎翠の詩に曲を付け、近年ではダースレイダー、平田俊子、北杜夫の作品にも挑戦するなど、幅広い表現者とのコラボレーションによって作品世界を広げてきました。この詩先への作曲の才能も、彼女の作家性の一端を担っています。

音楽活動と並行して、エッセイストとしても精力的に活動しています。『Quick Japan』『真夜中』『花椿』『すばる』『ミュージック・マガジン』など、様々な媒体で連載を持つほか、映画評や書評も執筆しています。近年の連載には「私の好きなわらべうた」「山姥のいるところ」「子どもたちに寄り添う現場で」「戦前音楽探訪」「時には旅に」「愛し、読書」など多様なテーマが挙げられ、その幅広い関心の深さが窺えます。

著書も多数出版しており、『原発労働者』『あのころのパラオをさがして 日本統治下の南洋を生きた人々』『彗星の孤独』『天使日記』『南洋と私』『日本人が移民だったころ』など、音楽とは異なる視点から社会や歴史、人間性を深く見つめた作品を発表し続けています。

また、2018年から2020年までは朝日新聞書評委員、2021年からは週刊金曜日書評委員、2022年からは信濃毎日新聞書評委員を務めるなど、メディアを通して社会に積極的に関わっています。NHK総合テレビジョン「Dearにっぽん」のテーマ曲「魔法みたいに」も担当し、教育芸術社の教科書にも楽曲が掲載されるなど、その活動は多方面に影響を与えています。2023年からは日本経済新聞「プロムナード」欄で連載を開始するなど、執筆活動もますます活発化しています。

多様なアーティストとのコラボレーションにも積極的に参加しており、細野晴臣、大貫妙子、阿久悠などのトリビュートアルバムに参加するなど、音楽シーンにおける幅広いネットワークと高い評価を証明しています。CMソングの制作も多数行っており、東進ハイスクール、資生堂、出光興産、ユニクロ、パナソニックなど、数多くの企業のCMに楽曲を提供しています。

寺尾紗穂の活動は、音楽と文学という異なる表現形式を自在に行き来し、それらを融合させることで、独特の世界観を作り上げています。これからも、彼女の表現活動は、音楽と文学の境界を軽やかに越え、多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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