寺崎広業

寺崎広業：放浪の画家から日本画壇の巨匠へ

寺崎広業は、1866年（慶応2年）、秋田県で生まれました。名家の出身でしたが、幼少期は貧しい生活を送ります。絵画への才能は幼い頃から顕著で、絵を描くことをこよなく愛していました。しかし、学業は長くは続きませんでした。太平学校変則中学科に入学するも、1年足らずで退学。その後は、素麺業や秋田医学校への通学など、様々な経験を経て、16歳で狩野派の小室秀俊に師事し、本格的に絵の道へ進むことを決意します。

19歳にして阿仁鉱山へ遊歴の画家として旅立ちます。その後、鹿角で登記所雇書記の職に就き、生活の安定を得ますが、絵を描くことへの情熱は失われることはありませんでした。やがて、異父弟の勧めで上京。平福穂庵、菅原白龍といった巨匠に師事し研鑽を積みます。しかし、彼はすぐに再び放浪の旅に出ます。足尾銅山では、阿仁鉱山で知り合った守田兵蔵と再会し、日光で美人画で名を馳せるようになりました。

帰郷後、東陽堂の『絵画叢誌』で挿絵の仕事に携わり、諸派名画の模写を通して、独自の画風を確立していきます。1892年には結婚、1893年には最初の門下生である稲田吾山を迎えます。1898年には東京美術学校助教授に就任しますが、翌年には岡倉天心の排斥運動により、学校を去ることに。その後は、日本美術院に参加し、横山大観や下村観山らと共に活躍しました。

1900年には、秋田、大曲、横手などで地方院展を開催し、故郷に錦を飾ります。1901年には東京美術学校教授に復帰。天籟散人という号を名乗り、天籟画塾を開設し、野田九浦、正宗得三郎、中村岳陵など300名にも及ぶ門下生を育成しました。1904年には日露戦争に従軍画家として従軍、森鷗外とも親交を深めました。この経験は、彼の木版画作品に大きな影響を与えました。しかし、健康を害し、3ヶ月で帰国しています。

1907年には第1回文展審査員を務め、『大仏開眼』を出品。1912年の文展では『瀟湘八景』を発表し、横山大観の作品と並び称賛されました。1913年には東京美術学校の日本画主任となり、1917年には帝室技芸員に任命されるなど、日本画壇における地位を確固たるものにしました。しかし、晩年は病に倒れ、1919年2月、54歳でその生涯を閉じます。彼の葬儀には3000人もの参列者があったという記録は、彼がいかに多くの人々に慕われていたかを物語っています。

寺崎広業は、生涯を通じて放浪を続け、数々の困難を乗り越えながら、独自の画風を確立し、後進の育成にも尽力しました。彼の作品は、明治期の日本画壇に大きな足跡を残し、現在でも高い評価を受けています。貧しい環境から出発し、常に絵筆を握り続けた彼の情熱と才能は、後世の画家たちに大きな影響を与え続けています。彼の生涯は、まさに「放浪の画家」から「日本画壇の巨匠」への、壮大な物語と言えるでしょう。

もう一度検索