阿仁鉱山

阿仁鉱山の歴史

秋田県北秋田市に位置する阿仁鉱山は、江戸時代から昭和にかけて、金、銀、銅を産出した歴史ある鉱山です。特に銅の産出量は、1716年（享保元年）には日本一となり、長崎貿易における重要な役割を担いました。この鉱山は、その歴史の中で、御用鉱山、久保田藩（秋田藩）の藩営、そして官営へと変遷し、最終的には民間へと払い下げられました。1978年（昭和53年）に閉山するまで、日本の鉱業史に重要な足跡を残しています。

開坑から藩営化、そして繁栄へ

阿仁鉱山の開坑は、江戸時代前期の寛文年間（1661年 - 1673年）とされています。ただし、寛永年間（1637年）に開坑されたとする説も存在します。1701年（元禄14年）には、秋田藩による直営化が行われ、その後、1708年（宝永5年）には、銅と鉛の合計産出高が360万斤に達するなど、17世紀後半から18世紀初頭にかけて最盛期を迎えました。

1773年（安永2年）には、秋田藩が平賀源内を招き、鉱山技術の指導を受けました。翌年には、米代川の支流である阿仁川と藤琴川の合流地点に、加護山製錬所が建設され、精錬技術の向上に貢献しました。

阿仁鉱山の歴史年表

1309年：金山が発見されたとされる。
1387年：湯口内、向山に銀山が発見されたとされる。
1637年：一説には、大坂の商人である北国屋吉右衛門の手代、高岡八右衛門が小沢銅山を発見したとされる。
1644年 - 1647年：近江商人、青山清左衛門が経営。向山舐沢銀山が閉鎖。
1702年：阿仁銅山が佐竹氏秋田藩の直営となり、銅山奉行の支配下に。
1716年：銅産出量が日本一となる。
1744年：小沢、大沢、真木など七つの山が開発される。
1764年：幕府が阿仁銅山を直轄化しようとするも、秋田藩の反発で撤回。
1773年：平賀源内が技術指導のために来山。
1784年：天明の大飢饉により鉱山開発が一時中断。
1790年：秋田藩により鉱山が復活。
1871年：秋田県庁の経営となる。
1875年：工部省鉱山寮の経営となり、官営鉱山となる。
1880年：ドイツ人技師メッケルとライヘルが来山。
1882年：新式製錬所が開設。
1885年：古河市兵衛に払い下げられ、古河阿仁鉱山となる。
1931年 - 1935年：世界恐慌のため、一時休山。
1933年：二十四孝の山頂部で金山が発見され、採鉱が開始。
1970年：生産操業が中止。
1978年：閉山。

阿仁銅山発見にまつわる二つの説

阿仁鉱山の名が全国に知られるきっかけとなったのは、銅山の発見でした。その発見には、二つの説が存在します。

1. 寛永説：大坂の小間物商、円八郎が、妻を追いかける中で、極印沢で黄金に輝く石を発見したという説。
2. 寛文説：大坂の茶豪商、北国屋吉右衛門の手代、高岡八右衛門が、妻が銀狐に変身する夢を見た後、極印沢で鉱床を発見したという説。

どちらの説も、最初の発見地は極印沢である点で共通しています。地元では、秋田藩が寛文10年に採掘許可を出したという記録があるため、寛文説が有力とされています。

江戸時代の阿仁銅山と平賀源内

阿仁鉱山は、佐竹氏の開発によって当初は金銀を産出し、17世紀には銅山へと移行しました。秋田藩の産銅は、幕府御用銅の4割弱、多いときには5割を超え、長崎輸出銅の主要部分を占めました。また、銭貨鋳造の原料としても重要なものでした。阿仁の銅は、米代川の舟運を利用して運ばれました。

1773年、秋田藩は平賀源内を招き、鉱山経営の立て直しを図りました。源内は鉱山士の吉田理兵衛とともに阿仁鉱山を訪れ、精錬法の改善や技術指導を行いました。また、源内は阿仁で「水無焼」という陶器づくりを指導したことでも知られています。

近代阿仁鉱山と異人館

1879年（明治12年）には、ドイツ人技師アドルフ・メッケルらが来日し、その官舎として、西洋風建築の異人館が2棟建設されました。この異人館は、ルネッサンス風ゴシック建築であり、レンガは地元の粘土を使用して作られました。異人館は、政府高官や鉱山関係者の娯楽施設や迎賓館としても利用されました。

阿仁鉱山の払い下げとその後

阿仁鉱山は、松方正義の大蔵卿時代に、財政改革の一環として古河市兵衛に払い下げられました。払い下げ時の官営投下資本は167万3,211円でしたが、払い下げ価格は33万7,766円でした。阿仁鉱山閉山後、異人館の隣には、阿仁鉱山の郷土文化を保存するための伝承館が建てられています。

阿仁鉱山は、その長い歴史の中で、日本の鉱業史において重要な役割を果たしました。鉱山閉山後も、その遺構や関連施設が、歴史を語り継いでいます。

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