帝室技芸員

帝室技芸員制度について

帝室技芸員（ていしつぎげいいん）は、戦前の日本において、日本画や工芸をはじめとする美術家を支援するための制度として、宮内省によって設立されました。この制度は、1890年に始まり1947年まで続きました。日本の優れた芸術家に対し、帝室からの栄誉を与え、その活動を保護する目的がありました。この取り組みによって、日本の美術業界は奨励され、発展が図られました。

帝室技芸員という名称が示す通り、任命される作家たちの活動は幅広く、特に日本画家や西洋画家、彫刻家についてはもちろん、金工や陶工、漆工、刀工なども含まれています。また、写真家などの現代的な工芸作家も対象となっていました。

設立の背景

帝室技芸員制度の設立は、文化的背景にも裏打ちされています。1887年頃、新派と旧派の間で文化の対立がありました。特に、東京美術学校を設立したフェノロサと岡倉天心を中心とする新しい価値観を持つグループは、旧派にとっての脅威と映っていました。このため、旧派の人々は伝統を守るために、宮内省の庇護を求め、新たに「日本美術協会」を発足させました。

1888年には、「宮内省工芸員」として17名が選定され、帝室技芸員の前身となる制度が設けられました。その後、1890年には正式に帝室技芸員制度が始まりました。選定にあたり、宮内大臣が任命した選定委員たちが作家を推薦し、その結果を基に内定者が決定されました。任期は終身であり、当初は20名、のちに25名が選ばれることとなります。

技芸員の選定と流れ

選定のメンバーは、主に帝国博物館や東京美術学校に繋がる組織の関係者で構成されていました。当初の技芸員は日本美術協会の年功序列に従って任命される傾向がありましたが、東京美術学校初代校長の浜尾新らが選定委員に名を連ねることで、新しい風が吹き込み始めます。さらに1913年には、正木直彦が選定委員に加わり、著名な官展系の作家たちも任命されるようになりました。

その中で、特に美術工芸の分野では、旬の作家が積極的に選ばれていたことが特徴です。このような選定の背景には、ジャポニズムの流行があり、日本の美術業界を海外に向けて積極的にアピールしようとする意図が見られます。

廃止とその影響

第二次世界大戦の前、1944年までに13回の選定が行われ、合計79名が帝室技芸員として任命されました。しかし、戦後の宮内省の再編成に伴い、この制度は廃止されました。廃止後も資格は取り消されず、実質的には1986年に最後の技芸員が亡くなるまでその流れは続きました。

作家たちを顕彰する動きは、一方で文化勲章や重要無形文化財制度、日本芸術院へのメンバー認定など様々な形に引き継がれ、今なお日本の文化を支える重要な役割を担っています。これにより、帝室技芸員制度は単に歴史的な制度にとどまらず、現代における日本美術の意義を再確認させるものとなっています。

参考文献

• - 樋口秀雄 「帝室技芸員制度─帝室技芸員の設置とその選衡経過」
• - 細野正信 「旧派から新派へ ―帝室技芸員の推移―」
• - 佐藤道信 「帝室技芸員と帝国美術院会員」
• - 横溝廣子 「帝室技芸員関係書類（東京国立博物館保管）概要」

また、帝室技芸員の活動に関する資料は、三の丸尚蔵館などに所蔵されており、今でもその影響は文化振興に寄与しています。

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