対心理情報課程

対心理情報課程：陸上自衛隊における特殊作戦教育の変遷

陸上自衛隊調査学校に設けられていた対心理情報課程は、その名の通り心理戦に特化した教育課程と思われがちですが、実際にはより広範な特殊作戦を扱うものでした。この課程は、1959年の開講当初は「SF課程（Special Forces）」、後に「CPI課程（Counter Psychological intelligence）」と通称され、1974年からは「心理戦防護課程（DPO課程）」と改称されました。少なくとも1990年代まではこの名称で教育が続けられていました。

課程の歴史的背景

対心理情報課程のルーツは、1952年1月に設置された警察予備隊総隊学校5部に遡ります。その後、保安隊業務学校、陸上自衛隊業務学校と組織改編を経て、調査学校として独立しました。2001年には業務学校と統合され小平学校となりましたが、2018年に再び情報学校として独立しています。

特筆すべきは、保安隊業務学校の時点で旧陸軍中野学校の教官が招聘され、特別情報課程が開講されていたことです。1959年に、藤原岩市陸将補の指導の下で対心理情報課程が開講され、特殊作戦部隊の育成が開始されました。

教育内容

調査学校の教育課程は、入校者の階級に応じて幹部課程と陸曹課程に分かれていました。対心理情報課程は幹部課程の一つであり、陸上自衛隊の訓令では「敵後方地域等で情報の獲得や遊撃活動等に任ずる幹部を育成する」と規定されていました。教育内容は、単なる心理戦にとどまらず、潜入訓練や遊撃戦を含む総合的な特殊作戦を扱っていました。当初は、アメリカ陸軍特殊部隊のように、情報理論に基づき、情報収集から特殊工作活動まで行える部隊の育成を目指していました。実地訓練では、ドヤ街への潜入や、甲府盆地が敵に占領されたと想定した総合訓練が行われました。

しかし、教官や資料類が中野学校のものを多く踏襲していたため、教育内容は次第にアメリカ式から中野学校式へと傾斜していきました。この変化は、三島事件とも関連して政治問題化する要因の一つとなりました。

課程修了者のその後

陸上幕僚監部でヒューミントを担当した第二部特勤班（陸幕二部別班）は、対心理情報課程の修了者が多くを占めていました。しかし、実務経験が乏しく理論が先行しがちな点や、情報戦よりも心理戦に重点を置いた教育内容であったため、非修了者からの評価は必ずしも高くありませんでした。この点は、教育内容と実戦での必要性との間にギャップがあったことを示唆しています。

まとめ

対心理情報課程は、陸上自衛隊の特殊作戦能力向上を目指した重要な教育課程でした。しかし、その教育内容は時代と共に変遷し、当初の目的とは異なる方向へ進んだ側面も持ち合わせています。この課程の歴史を振り返ることは、現代の特殊作戦や情報活動を考える上で貴重な示唆を与えてくれます。

参考文献

「赤旗」特捜班『影の軍隊 : 「日本の黒幕」自衛隊秘密グループの巻』新日本出版社、1978年。
黒井文太郎「自衛隊情報部隊の誕生と歩み(前編)元陸幕第二部長、調査隊第一科長、調査学校長に聞く (特集 自衛隊アフガン空輸と日米情報部隊)」『軍事研究』第44巻第4号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2009年4月、194-204頁。
兒嶋俊郎「調査学校史第13巻 昭和43年度」『長岡大学研究論叢』第14号、2016年7月、53-86頁。
共同通信「陸自、独断で海外情報活動／首相や防衛相に知らせず／文民統制を逸脱／民主国家の根幹脅かす」『47NEWS』2013年。

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