対支一撃論

対支一撃論

対支一撃論（たいしいちげきろん）は、日中戦争の初期に、永田鉄山、武藤章、田中新一などの軍人によって提唱された論理であり、日本軍が中国の国民政府に対して強力な一撃を加えることによって、その屈服を引き出し、早期に講和に持ち込もうとする考え方です。この論は、国民政府が日本の強大な軍事力の前に屈し、迅速な和平を実現することができると信じていたのです。

当時の背景

日中戦争の背景にある日本の軍事政策は複雑でした。日本陸軍の上層部は、関東軍が満州（満ソ国境）でソ連軍と対峙し、戦線が拡大することを警戒していました。そのため、「事変不拡大」の方針が打ち出され、早期講和を目指す動きが出ていました。だが、対支一撃論者である武藤や他の軍人たちはこの見解に異を唱え、「国民政府に対する強硬な態度を取るべきだ」と主張したのです。

対支一撃論の実行

その結果、対支一撃論が支持され、陸軍は上海に侵攻することとなりました。この行動は、第二次上海事変として知られています。また、南京への攻撃（南京攻略戦）もこの方針に基づいて行われました。日本軍は国民政府に対して強力な攻撃を行うことに成功しましたが、予想に反して国民政府は屈服しませんでした。事変は予想以上に拡大し、中国全土に影響を及ぼすことになりました。

武藤の悔い

後に武藤は、自身が取った方針に後悔の念を抱くようになります。彼は、戦局が思い通りに進まなかったことや、事変がより広範囲に及んだことを懸念しました。しかし、上海への陸軍派遣の決定は、実際には日本の天皇や海相である米内光政らの意向を反映したものであり、単に陸軍の強硬派の独断によるものではなかったのです。このように、政府側からも強硬政策が支持される形で事変が進められたのが実態でした。

結論

対支一撃論は、日本が中華民国に対して強硬な戦略を取ることの一つの象徴でありましたが、それが引き起こした結果は、想定以上の広がりを見せました。この論理は、単に軍事的な視点からの短絡的な判断であり、事変の長期化や国際的な逆風を招く要因ともなりました。日中戦争における対支一撃論は、戦争の展開に影響を与えただけでなく、当時の軍部の思考や政策の限界を示す重要な事例となっています。

関連文献

• - 今岡豊著『石原莞爾の悲劇』（芙蓉書房出版、1999年新装版） ISBN 4-8295-0235-5

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