専称寺 (多久市)

専称寺について

専称寺は、佐賀県多久市に位置する浄土宗の寺院で、山号を光明山と称します。この寺は、その長い歴史の中で、信仰の形態を変化させてきました。当初は天台宗の寺院でしたが、弘安年間（1278～1287年）に一遍上人がこの地を訪れた際、時宗へと改宗しました。その後、満恵の弟子である暁誉によって中興され、慶長14年（1609年）に再び浄土宗へと改められました。

歴史

専称寺の開山は、大同2年（807年）に行基菩薩によって創建されたと伝えられています。寺の公式サイトにもその記録が残っています。本堂は、文政11年（1828年）の大風で倒壊しましたが、天保の初めに再建されました。境内には、樹齢600年と推定される大躑躅があり、その歴史の重みを感じさせます。また、中世の武将である少弐政資とその子資元の墓所が残されており、この地が歴史的に重要な場所であったことを物語っています。さらに、前多久氏のものと思われる墓碑も存在します。

核割れ梅の伝説

専称寺には、「核割れ梅（さねわれうめ）」と呼ばれる梅の木があり、その由来には悲しい物語が秘められています。戦国時代の武将、少弐政資にまつわる伝説です。

少弐政資は、かつて肥前、筑前、豊前、壱岐、対馬を支配下に置き、「三前二島の太守」と称えられていました。連歌の会で「朝鳥の霜夜に睡る日影かな」と詠んだことから、「朝鳥の少弐どの」とも呼ばれるほどの名士でした。

明応6年（1497年）、大内義興の大軍に敗れて大宰府を追われた政資は、肥前晴気城の城主、千葉胤資を頼って入城しました。しかし、その晴気城も危機に瀕していました。胤資は政資に「ここは私が食い止めます」と告げ、死を覚悟しました。政資は胤資の勧めで、四月十八日の闇夜に紛れて脱出しましたが、頼れる場所は一箇所しかありませんでした。

梶峰城の城主、多久宗時は、政資の娘桔梗を妻として迎えていました。政資は戦いの前に若い妻桔梗を父宗時の元に預けていました。十九日の夜明け頃、政資は梶峰城にたどり着き、「桔梗、桔梗はおらぬか」と門を叩きました。しかし、城門は開かれず、宗時の声だけが聞こえました。「城へお入れすることは出来ませぬ。大内方に引き渡さぬのがせめてもの情け、潔くご自害なさるがよい」。宗時の元には、大内義興から「政資を匿えば、政資もろとも攻め滅ぼす」という最後通牒が届いていたのです。宗時に大内氏と戦う力はなく、娘の嘆願も聞き入れられませんでした。「分かっていただきたい。一人と大勢の命とは替えられぬ」政資は頼みます。「分かり申した。ではせめて桔梗に一目会わせて下さらぬか」答えはなく、城門を背に政資は力なく歩き出しました。「さらばじゃ、桔梗」

政資は、近くにあった専称寺でその日の夕暮れに辞世の句を詠みました。

text
花の散る思へば風の科（とが）ならず　時至りぬる春の夕暮れ


腰の袋から梅干しを取り出し、かりかりと噛み砕いた核を地に叩き付け、「心あらば、我が身代わりとなって萌え出で、春ごとに花を咲かせよ」と願いました。そして平たい石に腰を下ろすと、見事に腹をかっさばき、返す刃で喉笛を貫き自害しました。享年57歳でした。

翌年の春、不思議なことに梅の若芽が芽吹き、年々成長しました。初夏には青い実を付けましたが、その実には初めから核が割れているものも混じっていました。いつの頃からか、この梅は「核割れ梅（さねわれうめ）」と呼ばれるようになり、地元の人々からは「たね割れ梅」とも呼ばれています。この梅は、少弐政資の悲劇を今に伝える、特別な存在となっています。

外部リンク

千年寺院専称寺

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