小さな兵隊

映画『小さな兵隊』：ヌーヴェルヴァーグを代表する問題作

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1960年のフランス映画『小さな兵隊』（原題：Le Petit Soldat）は、アルジェリア戦争下の複雑な政治状況と個人の葛藤を鮮烈に描いた作品です。ゴダール監督の長編第2作であり、その制作から公開までには数々の困難が待ち受けていました。

制作の経緯：広告から始まった出会い

『小さな兵隊』の制作は、意外なきっかけから始まりました。ゴダール監督は、長編第1作『勝手にしやがれ』のキャスティング中に、石鹸のCMに出演していたアンナ・カリーナを発見します。ゴダール監督は彼女に連絡を取り、最初はちょっとした役を依頼するも、カリーナの反応は冷淡でした。しかし、この出会いが、のちにゴダール監督とカリーナの映画史に残るパートナーシップの始まりとなりました。ゴダール監督はカリーナを主演に迎え、『小さな兵隊』の制作に着手しました。

ゴダール監督は、ロベール・ブレッソンの『スリ』やアンドレ・マルローの『希望』といった作品に影響を受けつつ、自身のスタイルを確立しようとしていました。当初は「洗脳」というテーマを考えていましたが、より普遍的な主題へと方向転換し、アルジェリア戦争という時代背景を舞台に、複雑な人間関係と政治的葛藤を描く物語を構想しました。

撮影はジュネーヴで行われ、ゴダール監督はアルジェリア戦争における拷問方法を徹底的に調査したと伝えられています。制作期間中には、撮影の中断や予算の削減といった困難にも直面しましたが、ゴダール監督は自身のビジョンを貫き、撮影を完了させました。

公開への道のり：上映禁止と闘争

しかし、『小さな兵隊』の公開は容易ではありませんでした。1960年9月、映画倫理規程管理委員会は、作品の内容を問題視し、上映禁止を決定しました。その理由は、アルジェリア民族解放戦線（FLN）の活動やフランス軍の拷問シーン、脱走兵の描写など、当時のフランス社会の政治状況に敏感に反応するものでした。

上映禁止の決定は、ゴダール監督とプロデューサーのジョルジュ・ド・ボールガールに大きな衝撃を与えました。彼らは上映禁止措置に抗議声明を発表し、公開に向けて活動を続けました。フランスとアルジェリアで国民投票が行われ、アルジェリアの独立への機運が高まる中、ボールガールは当局に上映禁止の解除を繰り返し要求しました。

その後、検閲により約50分のカットが行われ、ようやく1963年1月、パリで限定公開となりました。公開された『小さな兵隊』は、当初の上映禁止決定の理由からもわかるように、当時の政治状況を反映した、非常にセンシティブな内容を含んでいます。

ストーリー：二重スパイとFLNのスパイ

『小さな兵隊』は、報道カメラマンでありながら、極右組織OASのエージェントでもあるブリュノと、FLNのスパイであるヴェロニカの逃避行を描いています。ブリュノはOASからの暗殺指令を拒否しますが、脱走兵の過去が弱点となり、逃亡を余儀なくされます。ヴェロニカはブリュノを監視する任務を受けていましたが、やがて彼に心を寄せていきます。ふたりの逃避行は、アルジェリア戦争という複雑な政治的状況の中で、さらに困難なものとなります。ブリュノとヴェロニカは、それぞれの思惑と葛藤を抱えながら、運命の歯車に翻弄されていきます。

スタッフとキャスト

監督・脚本：ジャン＝リュック・ゴダール
音楽：モーリス・ルルー
撮影監督：ラウール・クタール
主演：ミシェル・シュボール、アンナ・カリーナ

評価

『小さな兵隊』は、公開から数十年経った現在でも高い評価を受けており、Rotten TomatoesやMetacriticといったレビューアグリゲーターサイトでも高い評価を得ています。

結論

『小さな兵隊』は、単なる戦争映画やスパイ映画ではなく、アルジェリア戦争という歴史的背景と、個人の葛藤、政治的イデオロギー、そして映画表現そのものについて深く考えさせる作品です。ゴダール監督の革新的な映画手法と、アンナ・カリーナの魅惑的な演技も相まって、今もなお多くの観客を惹きつけてやみません。公開までの困難な道のりも、この映画の価値を高めていると言えるでしょう。

もう一度検索