小井川潤次郎

小井川潤次郎

小井川潤次郎（こいかわ じゅんじろう、1888年3月21日 - 1974年2月28日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の民俗学者、郷土史家、歌人、俳人です。「北奥民俗学の巨星」「八戸史学の父」と称えられ、青森県八戸市を中心とした地域の文化、歴史、民俗に関する研究に生涯を捧げました。

生涯

1888年、小井川潤次郎は八戸の地で生を受けました。父は塗師であり、種苗商も営むという多才な人物でした。幼い頃から、地域社会の伝統文化や自然に触れて育ちます。青森県師範学校卒業後、教員として各地の小学校に勤務する傍ら、植物や民俗の研究に情熱を注ぎました。特に、子供の頃から親しんだ郷土芸能「えんぶり」に魅了され、その研究に没頭しました。

1928年、小井川は八戸郷土研究会を結成し、地域の文化研究を本格的にスタートさせます。翌年より地方紙『奥南新報』で「村の話」と題した民俗レポート・論考の連載を開始。この連載は10年以上にわたり、1000回を超える人気を博しました。その内容は、地域の伝承、風習、生活様式など多岐にわたり、地域住民のアイデンティティの形成に大きく貢献しました。また、この連載がきっかけとなり、柳田國男、折口信夫、佐々木喜善ら、著名な民俗学者との交流が始まりました。

小井川の活動は、研究に留まりません。伝統工芸「南部菱刺し」の復興活動に尽力し、柳宗悦の協力を得て全国に紹介しました。また、糠部郡三十三観音巡礼に関する古文書を発見・翻刻・出版し、地域の歴史研究に新たな光を当てました。種差海岸、根城、是川遺跡の研究にも取り組み、これらの地が名勝・史跡として指定されるよう尽力しました。

俳人・歌人としても才能を発揮し、野沢葛堂、恋川瓢子、恋川なぎさなど、数多くの号・筆名を用いて作品を発表しました。

戦後は、八戸郷土研究会の機関誌『いたどり』を創刊し、後進の育成にも力を注ぎました。1952年には日本民俗学会名誉会員に推挙され、その功績が広く認められました。1974年、自宅にて85歳で逝去。その研究成果は、没後、全11巻の『小井川潤次郎著作集』としてまとめられ、今もなお多くの研究者に参照されています。

研究内容と業績

小井川潤次郎の研究は、多岐にわたりますが、以下に主なものを挙げます。

民俗学: 民間信仰「おしらさま」や郷土芸能「えんぶり」の研究。
郷土史: 糠部郡三十三観音巡礼に関する古文書の研究、是川遺跡、根城の研究。
伝統工芸: 南部菱刺しの復興活動。
地誌: 種差海岸をはじめとする地域の自然に関する研究。

これらの研究を通じて、小井川は地域の文化遺産を掘り起こし、その価値を再認識させました。また、地域住民のアイデンティティの形成に貢献するとともに、後世に貴重な文化遺産を継承しました。

評価

小井川潤次郎は、「北奥民俗学の巨星」、「八戸史学の父」と称えられ、その功績は高く評価されています。柳田國男は、その研究姿勢を「孤高の人」と評したと言われています。

小井川の活動は、地域文化の研究だけでなく、文化財の保護にも貢献しました。種差海岸、根城、是川遺跡が名勝・史跡として指定されたのは、小井川の尽力によるものが大きいと言えます。

著作

『三戸郡誌 第四篇 歌謡篇』(1927年)
『館村誌 年中行事篇』(1934年)
『大館村誌』(1959年)
『八戸の四季』(1961年)
『八戸覚え書』(1965年)
『小井川潤次郎著作集』(全11巻)

これらの著作は、地域の文化、歴史、民俗に関する貴重な資料として、今もなお多くの人々に読まれています。

小井川潤次郎は、地域を愛し、地域文化の発展に尽くした偉大な学者でした。その功績は、これからも長く語り継がれていくことでしょう。

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