小倉黒人米兵集団脱走事件

小倉黒人米兵集団脱走事件とは

[1950年]]7月11日、連合国軍占領下の福岡県小倉市（現在の北九州市）で、アメリカ陸軍兵士が多数脱走した事件です。この事件では、特にアフリカ系アメリカ人（黒人）兵士が中心となり、周辺住民に対して略奪、暴行、強姦などの行為に及んだとされています。しかし、[[連合国軍最高司令官総司令部]による情報統制のため、事件はほとんど報道されず、被害者も沈黙を守ったため、事件の詳細はいまだに不明な点が多く残っています。

事件の背景

第二次世界大戦終結後、小倉市にはアメリカ陸軍第24歩兵師団が駐屯するキャンプ小倉が設置されました。小倉には米兵を相手に商売をする人々が集まり、いわゆる「パンパン」も増加しました。

1950年6月、朝鮮戦争が勃発し、第24歩兵師団は朝鮮半島へ派遣されることになりました。特に第1大隊は「スミス支隊」として最初に派遣され、以降も多くの兵士が続々と送られました。小倉港では、兵士たちが朝鮮半島へ出発する光景が見られ、見送るパンパンとの別れを惜しむ姿もありました。

朝鮮半島での戦闘は非常に激しく、第24歩兵師団は大きな損害を受けました。そのため、米軍は帰休制度（リターン・レスト）を設け、朝鮮半島で戦闘に従事した兵士を一時的に日本へ帰還させ、休養を与える措置を取りました。この制度でキャンプ小倉に設置されたRRセンターで休養を取った兵士たちは小倉の町に繰り出し、多額の日本円を消費しました。しかし、明日には再び戦地へ戻るという状況から、兵士たちの心は荒み、自暴自棄になる者も多くいました。

7月4日には、小倉市で米兵が一家5人を襲撃し4人を殺害するという痛ましい事件も発生しています。しかし、小倉市警察には捜査権限がなく、米軍の軍法会議で処理されることになり、被害者への補償金で解決されました。

7月9日、壊滅した第24歩兵師団の補充として、黒人兵を中心とした第25歩兵師団第24歩兵連隊が岐阜県から小倉に到着しました。

集団脱走の発生

7月11日、小倉祇園太鼓の前夜祭という賑やかな雰囲気の中、黒人兵士約200人が基地の有刺鉄線を破って集団脱走しました。彼らはカービン銃や拳銃、手榴弾で武装しており、周辺住民は当初、演習と勘違いするほどでした。しかし、脱走兵たちは周辺地域で酒を盗んだり、民家を荒らしたり、女性を求めて家に押し入ろうとするなどの狼藉を働きました。住民は恐怖を感じ、女性を隠したりして脱走兵が去るのを待ちました。

近隣のろう学校にも脱走兵が侵入し、教員に女性を要求する騒ぎも起きました。学校から脱走兵がいなくなった後、女子生徒を風呂桶に隠し男性教諭が夜通し見張っていたという証言もあります。また、女性の悲鳴が各地で聞こえたという証言も複数ありますが、実際に強姦事件として報告されたものは少なく、多くの事件が隠蔽された可能性があります。当時の小倉市長の証言によると、警察には多くの人身被害の報告があったものの、事件の真相はほとんど明らかにされていません。

事件の鎮圧

事件発生後、米軍憲兵隊と小倉市警察は鎮圧に乗り出しました。憲兵隊は自動小銃や機関銃で武装し、市街地で脱走兵を追い詰めようとしました。小倉市警察も拳銃を武器に応援しましたが、脱走兵の数が多く、一時的に包囲されるなどの危機的な状況も発生しました。最終的に、米陸軍の二個中隊が出動し、装甲車を使用した市街戦を展開し、脱走兵を鎮圧しました。

夜遅くになって、第24歩兵連隊のスミス代将が脱走兵の説得にあたり、翌朝6時頃まで市中をうろついていた脱走兵の大部分が鎮圧されました。

事件の影響

事件後、米軍内で黒人部隊に対する人種差別が問題視され、激戦地へ送られる恐怖や自暴自棄が脱走の原因となったと言われています。この事件は、小倉の住民に大きな恐怖を与え、その後の生活にも大きな影響を与えました。強姦被害に遭った世帯の中には、噂が広まり転居を余儀なくされたり、精神的に深い傷を負った人も多くいました。

事件後、キャンプ小倉の司令官は遺憾の意を示し、黒人兵の感情に応えるため、黒人の中尉が憲兵副長に任命されました。

小説家の松本清張は、この事件を題材にした小説『黒地の絵』を発表しています。

この事件は、戦後の混乱期における人種差別や米軍兵士の苦悩、そして占領下の日本の実態を浮き彫りにする出来事として、歴史の中に埋もれてしまっています。

参考文献
『目録20世紀 1950』 講談社刊
『朝鮮戦争』 児島襄著
* 『門司と小倉の歴史から九州がわかる話27 アメリカ陸軍黒人兵の暴動と北九州大水害』田郷利雄、J・F刊

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