小口大八

小口大八（1924-2008）は、日本の和太鼓界に革命を起こした、偉大な和太鼓奏者にして御諏訪太鼓の宗家です。長野県岡谷市に生まれ、早稲田大学専門部卒業後、ジャズドラムを学んだ経験を持つ異色の経歴の持ち主でした。

代々打頭を務める小口家の分家筋に生まれた小口は、戦後、大八パン創業の傍ら、燦星楽団を結成。1948年、小口家本家の味噌蔵から発見された「藤太郎覚書」と呼ばれる古文書を解読し、明治時代から途絶えていた長野県諏訪地方の伝統芸能、御諏訪太鼓の復興に着手しました。

綿密な調査と研究の末、1951年に御諏訪太鼓を復活させ、1953年には御諏訪太鼓保存会を結成。以来、宗匠・打頭として国内外で活躍し、数々の公演や指導、作曲活動を行いました。東京オリンピック、大阪万博、長野オリンピックといった国家的イベントへの出演や、NHK大河ドラマへの参加など、その活動は多岐に渡ります。

小口大八の最も大きな功績は、和太鼓の演奏スタイルに革命を起こしたことでしょう。それまで祭囃子や神楽の伴奏として脇役的な役割を担っていた和太鼓に、主役の座を与えたのが彼の確立した「複式複打法」です。この打法は、現在では日本各地の多くの和太鼓チームに取り入れられ、和太鼓を一つの音楽、芸術としての地位に押し上げる大きな役割を果たしました。

小口の創作活動もまた、注目に値します。「阿修羅」「諏訪雷」「飛竜三段返し」など、数多くの作品を生み出し、その中には長野オリンピック閉会式で演奏された「勇駒」「萬岳の響き」「信濃田楽」も含まれています。彼の作品には、民俗的精神性が織り込まれており、多くの太鼓グループが地域に根ざした芸能活動を行うきっかけとなりました。

さらに、小口は和太鼓の普及にも大きく貢献しました。国内外で精力的な指導を行い、彼が指導・教育・設立に関わった和太鼓チームは600を超えます。アメリカ合衆国では、「サンフランシスコ太鼓道場」の創設者である田中誠一氏など、多くの弟子が活躍し、北米の和太鼓チーム数は2011年時点で300を超えると言われています。

小口大八は、和太鼓の世界にとどまらず、ジャズドラマーのジョージ川口氏、サキソフォンの野田燎氏、インド舞踊のシャクティ・チャクラワルティー氏など、他ジャンルのアーティストとの共演も積極的に行い、和太鼓の可能性を無限に広げました。

彼は700点以上の世界の太鼓を収集し、岡谷市に世界の太鼓博物館（御諏訪太鼓会館内）を設立するなど、和太鼓を通じた文化交流にも尽力しました。岡谷太鼓祭りの創成期にも大きく貢献し、その功績は現在も高く評価されています。

2008年、交通事故により84歳で逝去。しかし、その意志は孫である山本麻琴氏によって受け継がれ、現在も和太鼓界で活躍しています。2024年、生誕100年を迎え、岡谷太鼓まつりでは小口の功績を称える特別企画が行われました。小口大八の功績は、日本の和太鼓界に永遠に刻まれるでしょう。

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